加齢による衰えや病気の後遺症などで、自分の力で"食べる"ことが難しくなることがあります。食べる力を失う要因と、回復の"キーマン"について、ふれあい歯科ごとう代表の五島朋幸先生にお話を伺いました。
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退院・転院時が回復のチャンス!
口から食べることができなくなるきっかけに、「入院」が大きく関わっています。病院では、安全性が何よりも優先されます。誤嚥などの事故を防ぐために、時間をかければ自力で食べられる人でも、医師に食べることを禁止(禁食)されやすい傾向にあるのが実情です。
「経管栄養や静脈栄養にしてしまうことで食べるための機能を長期間使わなくなり、それらの機能が低下してしまいます。廃用症候群の一種ですね。
自宅に戻っても、転院先でも、入院していた病院の主治医による禁食の申し送りが引き継がれ経管栄養のままになってしまいます。結果、訓練すれば自力で食べられる人も、食べることができなくなるのです。入れ歯を長期間外していたことで、口に合わなくなった入れ歯を使い続けて食べることが困難になっている人もいます」(五島先生)
食べられないと診断されても、食べられるようになる可能性がある人がたくさんいるのです。
東京都福祉保健局の「東京都摂食・嚥下機能支援推進マニュアル」によると、265名の訪問診療の症例のうち患者の摂食嚥下機能が実際よりも低く見積もられていた症例(流動食、きざみ食など食事の形態を上げられるはずの症例)が37例ありました。
37例中30例は、初診時は経管栄養のみでしたが、ゼリーなどの誤嚥しにくいものを使用すれば、食べる訓練が可能と判断された症例でした。
しかし医師から禁食と言われればそれに従ってしまうもの。いったいどうすればよいのでしょう。摂食嚥下障害の治療は、内科や外科などの領域と思いがちですが、実は「歯科」です。
「口の環境と機能に関しては、全て歯科医の仕事。摂食嚥下についても専門的に学んでおり、患者の摂食嚥下障害の程度をチェックし、食べられるように訓練します。口から食べない状況が長く続かないよう、退院・転院の際に歯科医に診てもらうことをおすすめします」(五島先生)
訪問診療を積極的に行う五島先生は、実際に多くの患者の食べる力を改善させてきました。
「経管栄養を継続している人は、食べていないので口腔機能が低下します。ある70代の胃ろうの男性の治療を例に挙げますと、最初はなめて溶ける柔らかいサラダせんべいを食べていただきました。食べるときは、舌の上に食べ物をのせてから奥歯に移動させてかむという、舌の動きがとても大切です。繰り返すうちに感覚を思い出してきて、舌の動きが良くなりました。次に、水をそのまま飲んでもらい、飲み込む力をつけていきました。病院では通常、誤嚥性肺炎が怖いので、水などにはとろみをつけます。しかし、それに慣れてしまうと飲み込めなくなってしまうため、とろみをつけずにトレーニングしました。そのような訓練を続けた結果、カレーライスを食べられるまでに回復しました」(五島先生)
どれだけ回復するかには個人差がありますが、全く食べられないと諦めるのはまだ早いかもしれません。居住地域の歯科医師会に相談し、専門の歯科医を紹介してもらいましょう。
取材・文/中沢文子