近年、口腔機能の低下が全身の不調につながるとよく知られるようになってきました。こうした口腔機能の低下には、歯周病や虫歯などによるかむ力の低下・だ液の減少・舌の筋力の衰えなどがあげられます。ただ口と歯は、日々のセルフケアで健康に保てます。
今回は自分自身で毎日できる"口腔機能を健康に保つ方法"を、東京医科歯科大学講師で認定歯科衛生士(老年歯科)の小原由紀先生に伺いました。
毎日の予防的ケアで口腔機能の衰えを防ぐ!
「かむ、飲み込むなどの"食べる力"が低下すると低栄養を招き、体の衰えにつながります」と、小原由紀先生。
人はものを食べるとき、舌が下あごや唇と連動して食べ物を歯の上に置き、かみ砕く動作を 繰り返します。砕かれた食べ物はだ液によってまとめられ、舌の動きで喉の奥へと運ばれて飲み込まれます。ですが、食べる力が弱まると、口周りの筋肉が落ち、かむ力や舌を動かす力、飲み込む力が落ちやすくなります。また、虫歯や歯周病などできちんとかめる歯が減り、口の筋力が低下することもあります。
同時に、薬の影響などでだ液の分泌量が減ることで口の中が乾燥したり、虫歯や歯周病のリスクが高まったり、口臭が強くなるなど、多くの不調が起こります。
2018年4月から、65 歳以上の方の「かむ力やかみ砕く機能の検査」や「口腔機能低下症がある人への機能訓練の指導」などに健康保険が適用されるようになりました。口腔機能低下症とは、「かむ力」「舌の筋力」「飲み込む能力」「舌の汚れ」「口の乾燥」「かみ砕く能力」「舌や唇の運動機能」の7項目のうち、3項目以上の機能低下が当てはまる状態。
「食べこぼす、しゃべりにくい、口の中が乾燥するなど、口腔機能の低下は自覚しづらいもの。ちょっとしたサインを見逃さず、まずは歯科医に相談してください」(小原先生)。
口と歯の元気のポイントは5つ!
(1) だ液腺
だ液には、虫歯を防ぐ、口内 を潤わせて会話をしやすくする他、粘膜を保護し、食べ物の消化を助ける、味覚を促進するといった働きがあります。
(2) 口輪筋(こうりんきん)
唇の周囲を取り囲む筋肉で、唇を閉じたりすぼめたりするときに使います。口輪筋が衰えると、食べこぼしたり、滑舌が悪くなったりします。
(3)歯槽骨(しそうこつ)
歯を支えている骨のこと。通常、 歯は簡単に抜けることはありませんが、歯周病が進行すると歯槽骨や歯根膜が破壊されて歯を支えることができなくなり、歯が抜けることがあります。
(4)エナメル質
歯の表面の部分。人間の体の中で最も硬い組織ですが、酸に溶けやすいという弱点があります。
(5)歯周ポケット
通常、歯と歯茎の境目には1~2㎜の溝(歯肉溝)があります。この溝が病的に深くなってしまった状態をいいます。
次の記事「虫歯?誤嚥?酸蝕歯(さんしょくし)? 口と歯の健康度をセルフチェック/口と歯(2)」はこちら。
取材・文/笑(寳田真由美) イラスト/はせがわめいた
小原由紀(おはら・ゆき)先生
東京医科歯科大学講師、認定歯科衛生士(老年歯科)。東京都健康長寿医療センター非常勤研究員、日本歯科衛生士会理事。