<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:56歳の妻と二人暮らしです。昨年春に義母を亡くし、喪中の正月を迎えました。
「もうすぐお正月ねえ、おせち料理はどれにする?」
2020年の暮れも近くなった頃、注文販売のカタログを見ながら妻(56)が聞いてきました。
「う~ん、そうだな、まあ正月には子供達も帰ってくるだろうし、いつもの感じでいいんじゃない...って、え? おせち料理?」
「そうよ、そろそろ注文しないと...」
いやだって、今年は違うんじゃない?
妻の母(享年82)は3月に亡くなりました。
まだコロナ騒ぎもそれほどではなく、病院で看取るともできましたし、家族葬できちんと葬儀も出せたのである意味幸運な方でしたが、言うまでもなく2021年の正月は喪中です。
「喪中でおせち料理ってありなのか?」
「別にそれでお客をもてなそうってわけじゃなし、家族で季節のごちそう食べるぐらいいいんじゃない?」
「そういうもん?」
「おせちと思うからダメなのよ、季節の盛り合わせ、オードブルって思えばいいの。さて、やっぱこれかなあ...」
カタログで品定めする妻を複雑な気持ちで眺めました。
まあ、確かに子供達がそろって帰ってくるのもそうそうある機会じゃないしな、と納得することにしました。
妻は年末には例年のごとく煮しめや黒豆を作り、例年通りの正月の準備を済ませてしまいました。
結果的には娘(26)も息子(23)も急激な感染拡大に伴う自粛ムードで帰省を見合わせ、4人分のおせちを2人で始末する羽目にはなりましたが。
「子供らも帰ってこないし、静かな正月だよな」
「まあコロナでどの家もそんなもんじゃない?」
2人の元日を過ごしていると、郵便屋さんが配達に来ました。
「今年は年賀状もないからな...」
そう言いながらポストを見に行くと、思ったよりも多く賀状が届いています。
「あれ? 多いな。喪中はがきを出し忘れた分、そんなにあったか?」
確かめていくとほとんどが妻宛てです。
「あれ? 喪中はがき出したよね?」
「あなたが出した分のこと?」
妙な返事が返ってきました。
確かに親戚筋など、私が賀状を出している分は見当たりません。
「出さなかったの? 喪中はがき」
「うん」
妻はそう言いながら年賀状をめくり始めました。
「え? なんで?」
「滅多に会わない人にまで不幸を知らせなくてもいいでしょ? 年に一度の年賀状でしか近況が分からない人もいるし」
妻はどこ吹く風です。
「いや、喪中って、そういうもんじゃないでしょ。返事どうすんのさ、いまさら寒中見舞いで不幸を知らせるわけ?」
「そんな必要ないでしょ。普通に年賀状で返事を出すわよ」
「それっていいの?」
「何も不幸を共有しなくてもいいでしょ? うわあ、○○さん、孫ができたんだ、いいなあ...」
妻は年賀状の一枚一枚を楽しげに眺めています。
「ああ、喪中だと面倒な飾りつけとか、年始周りとかしなくていいし、行きたくもない新年会も堂々と断れるから楽よねえ」
「年賀状のやり取りして、おせち料理を堪能して、喪中もないもんだ」
「あなたって固いわねえ...」
すっかり「お正月の」おいしい所だけつまんでいる妻の姿を見て、なんとも複雑な心境です。
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