小さいチャンスの数を増やす
稲垣栄洋先生――植物にとって、もっとも大切なことは種子を残すことである。
種子を生産するときには、二つの方向の戦略がある。
一つは大きいタネを作るという戦略である。
もう一つは小さいタネを作るという戦略である。
大きいタネと小さいタネでは大きいタネの方がいいに決まっている。大きいタネは栄養をたくさん蓄えているから、生存率も高いし、大きく育つことができる。
しかし、種子を作るために使える栄養分の総量は決まっているから、大きいタネを作ろうとすれば、生産できるタネの数は少なくなる。
一方、小さいタネは生存率も低いし、成長量も小さい。しかし、一つ一つのタネが小さい代わりに、タネの数を増やすことができる。
少ない大きいタネという戦略と、たくさんの小さいタネは、どちらが成功するだろうか。
どちらが有利かは、環境によって異なる。
もし、正解がわかっている環境であれば、正解という名前の種子に最大限の資源を投資すればよい。しかし、正解がわからない場合はどうだろう。
雑草が生える環境は「予測不能な変化」が起こる環境であると言われる。つまり、何が起こるか誰にもわからない環境だ。予想不能な環境で雑草はどうするだろう?
そんな不安定な環境では、たくさんの小さいタネが有利である。何しろ、どのタネが成功するかわからない。一つ一つのタネは小さくても、タネの数が多ければ、そのうちのどれかが大きく育つかもしれない。だから、雑草と呼ばれる雑草は、たくさんのタネを飛ばす。そのほとんどは生存することができないが、そのうちの一つが成長できれば、雑草にとっては、それが成功なのだ。
学生時代の小島さんは、興味がないものでも、誘われたら断らずに、誘われるままにどこでも出掛けていったという。もともとお笑い好きだったらしいが、「お笑いサークル」との出会いさえも、たまたま出掛けていった新入生歓迎会で誘われたお笑いライブだというから、驚きだ。
誘われて出掛けていったものの中には、小島さんの将来にとって役に立つものも立たなかったものもあることだろう。しかし、何が大きく育つかは、誰にもわからない。そうだとすれば、小さなタネをたくさんばらまくことが大切になるのである。