柴田:娘さんがお母さんの介護をその後も頑張り続けていたとしたら?
川内:倒れてしまったでしょうね。
柴田:そうなると残されたお母さんはどうなるんですか?
川内:緊急避難でショートステイ(介護施設の短期入所)に入っていただくことになります。実際、別のケースですが、娘さんが認知症のお父さんの介護に疲れて倒れてしまい、そうした措置をとらせていただいたことがあります。このときは本当に大変で、私、警察のやっかいになりました(苦笑)。
柴田:えっ、何があったんですか?
川内:そのお父さんがショートステイ先の施設で夜中に暴れましてね。「お前、何の権利があってオレをここに閉じ込めるんだ。出せ! でなきゃこれをぶち壊すぞ!」と玄関ドアの前で叫びまくるわけです。
それはもう大変な騒ぎで、入所者にも迷惑ですから、施設の方とも相談して、とりあえず外に出ていただくことにしたんです。それで玄関ドアをピッと開けて、お父さんに外出していただくことにしました。
でも認知症のお父さんをそのままにできませんから、少し離れてあとをついていったんです。そうしたら、突然パトカーが現れまして(苦笑)。「怪しい奴が後ろをついてくる」とお父さんが携帯電話で110番通報したんです。
柴田:あちゃー。それでお巡りさんにいろいろ聞かれて。
川内:はい。「決して怪しい者ではございません。実はこれこれこういう状況でして」とお話しして、施設にも確認していただき、お巡りさんには帰っていただきました。
柴田:お父さんはどうなったんですか?
川内:娘さんが倒れたことも認識していませんでしたから、「娘のいる家に帰る」と言い張りましてね。「あとから娘さんは来ますから」と言って、何とか施設に帰っていただきました。
娘さんが頑張りすぎて親が子どもに過度に依存するようになってしまった典型的な事例で、娘さんが倒れる前に外部の支援を仰ぎ、いざとなったらショートステイができる馴染みの施設がすでにあったなら、こんなことにはならなかったはずです。
柴田:なんでそこまで頑張っちゃったんだろう。お父さんと娘の二人で寄り添って生きてこられたのかなぁ。だから他人の支援を受けたくなかったんだろうか......。
川内:難しい問題ですね。親に頼られ、それに応えることに子どもがやりがいを感じたりすると共依存の関係になって、余計に外部の支援が受けられなくなりますしね。
介護は親子の関係性が如実に現れますから、子どもの中でそれをうまく消化して客観視できるようでないと、簡単には外部支援に踏み切れないのかもしれません。それこそ親の言うことは絶対で、「親が嫌だと言うなら嫌なんです!」と強硬に外部支援を拒否される方もいます。そういう意味で大事になるのは、親が自分に過度に依存している、ということに子ども自身が気づくことです。そうでないとますます親は子どもに頼るようになります。
柴田:それには問題が深刻になる前に、とにかく地域包括支援センターに相談する。
川内:それが何より大事になります。プロのサポートが入れば、子どもも意外とすんなり、「私が頑張りすぎてるのかな......」と気づいたりするものです。