【第1回から読む】柴田理恵「他人様に介護をお任せするのに、迷いがあった」介護のプロと語る「遠距離介護の始め方」
『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』 (柴田理恵/祥伝社)第6回【全6回】
離職、同居しないでOK、お金がなくても大丈夫! 富山に住む一人暮らしの母が要介護となった、女優・柴田理恵さん。選んだのは「遠距離介護」でした。
少子高齢化、子ども世代の賃金の伸び悩みなど、自身の生活を維持しながら親の介護をどうすれば良いのか、悩める人は多いはず。そんな人々に柴田さんが自身の経験に照らしながら、専門家と対話してできた1冊が、 『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』です。
本書から、「介護のプロ」川内潤さんと柴田さんによる、【遠距離介護の始め方】をテーマにした対談を、全6回に分けてお届けします。
※本記事は柴田理恵著の書籍『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)から一部抜粋・編集しました。
親が子どもに過度に依存しているときはプロの力を借りる
柴田理恵さん(以下、柴田):親が子どもに依存してしまう悪循環を断ち切るため、具体的にはどうすれば?
川内潤さん(以下、川内):子どもが親の介護から手を引き、親が本当に困って外部の助けを自ら求めるまで待つことです。ただし、これを親子間だけでやるのは、やめたほうがいいです。
柴田:「お前は親を見捨てるのか!」となりそう(苦笑)。
川内:そうなんです。親子関係が壊れてしまう恐れがある。じゃあどうするかと言ったら、プロの力を借りることです。親の住所地を管轄する「地域包括支援センター」というのがありますから、そこへ相談することです。高齢者の暮らしを地域でサポートするための施設で、ケアマネジャーさんや社会福祉士さん、保健師さんなど介護や医療、保健、福祉など、それぞれ専門知識を持った職員が在籍していて、介護や介護の予防のほか、日常生活での困り事などについても相談に乗ってくれます。
柴田:高齢者のための総合相談窓口みたいなところなわけですね。
川内:まさにそういう相談機関です。ここに相談すれば、介護保険を使って外部の支援を受けるにはどうすればいいか、一から教えてくれますし、外部の支援を受けたがらない方を上手に説得する道筋もつけてくれます。
実際、私も地域包括支援センター経由でそうしたご依頼をいただいて、外部支援を拒否していた方をデイサービスにお連れしたことが何度もあります。
柴田:どうやって説得されるんですか?
川内:たとえば、こんなケースがあります。
ある娘さんがご高齢のお母さんと二人で暮らしていました。お母さんは、もともと自宅で編み物教室をされていたんですが、認知症を発症されまして、すぐに外部の支援を仰げばよかったんですが、娘さんは自分でお母さんの面倒を懸命に見るようになった。それにお母さんは依存するようになって、娘さんがもう無理となっても、なかなか外部の支援を受けようとしないわけです。
それこそ介護やデイサービスという言葉を聞いただけで、「あなたは私をどっかにさらっていくつもりでしょう!」と怒り出してしまう。
そんなとき外部支援のご依頼をいただきまして、さてどうしたものかと。それで一計を案じまして初心者向けの編み物の本を買ってきて勉強したんですね。そしてお母さんの前で編みかけのコースターを見せて、「途中まで編んだんですけど、この先、色を変えるにはどうしたらいいんですか?」と教えを乞(こ)うたわけです。
するとニコニコされて、「あなた、男のくせに編み物やるの?」と。よし、好感触だと思い、「実は妻から不器用なあなたに編み物なんて絶対無理と言われたので見返してやろうと思いまして」と笑いながら答えると、「変わってるわね。いいわ、教えてあげる」と言ってくださったんです。
私は、すかさず提案しました。「じゃあ、道具がそろっているところがあるので一緒に行って教えてくれませんか」と。それでお母さんはデイサービスに通うようになったんです。介護やデイサービスという言葉はいっさい使っていません。
柴田:編み物まで勉強して説得したんですか!? すごいな、プロって。
川内:いえいえ(笑)。じゃあ、そのお母さんはデイサービスに通って何をするかと言ったら、私にひたすら編み物を教えるわけです。わからないことは何度聞いても優しく教えてくれる。実にいい先生です。おかげでほんとにコースターを編めるようになりました(笑)。
柴田:奥様もびっくり(笑)。
川内:いや、本当に(笑)。ただ、誤解してほしくないのは、デイサービスへ行くべきかは、ご本人の意思と介護の状態によりますから、当然、ケースバイケース。大事なのは、デイサービスに行くことではなく、いかにご本人が穏やかに心地よく生活できるかです。自宅にいたほうが穏やかに暮らせるなら、もちろんそのほうがいいわけです。家にいて一人で本や新聞を読んだり、趣味の陶芸で土をこねたりするのが好きな人を無理やりデイサービスに連れていってもつらい思いをさせるだけです。でもこのケースでは娘さんがもう限界でした。そこでデイサービスを利用して娘さんを介護から解放しつつ、お母さんには生涯大事にされてきた編み物を教える機会をつくってさしあげることで、穏やかに過ごせる時間と場所を用意したわけです。