『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(柴田理恵/祥伝社)第1回【全6回】
離職、同居しないでOK、お金がなくても大丈夫!
富山に住む一人暮らしの母が要介護となった、女優・柴田理恵さん。選んだのは「遠距離介護」でした。
少子高齢化、子ども世代の賃金の伸び悩みなど、自身の生活を維持しながら親の介護をどうすれば良いのか、悩める人は多いはず。
そんな人々に柴田さんが自身の経験に照らしながら、専門家と対話してできた1冊が、『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』です。
本書から、「介護のプロ」川内潤さんと柴田さんによる、【遠距離介護の始め方】をテーマにした対談を、全6回に分けてお届けします。
※本記事は柴田理恵著の書籍『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)から一部抜粋・編集しました。
親孝行の罠
柴田理恵さん(以下、柴田):3年半ほど前に遠距離介護がテーマのテレビ番組で一度ご一緒させていただきました(NHK『あさイチ』2020年3月4日)。
川内潤さん(以下、川内):そうでした。
柴田:私は一人っ子で、母は父が亡くなってから富山の実家で一人暮らしでした。ですから母が病で倒れて介護が必要になったとき、最初は引き取ることも考えたんです。でも、やめました。断られるのがわかっていたから。
というのも、以前母から言われたことがあるんです。「親には親の、子どもには子どもの人生がある。お前には芝居という大事な仕事があるんだから、東京で頑張れ。何かあってもお前の世話になるつもりはない」と。
母には富山に友人・知人がいるし、子どもたちにお茶などを教えていて、それが生きがいになっていた。母にとって大事なものはみんな富山にある。それを見知らぬ土地に連れてきて、奪うわけにはいかないと思いました。環境の変化がストレスになって認知症になったりするのも困りますし。だから遠距離介護を選んだんです。
川内:そうでしたか。お母様の希望でもあったんですね。
柴田:長く小学校の先生をやっていたせいもあって、人に頼らないとか、仕事を大事にするとか、そういう意識がとても強いんです。だから私も遠距離介護を選択できたんですけど、じゃあその実態はどうかと言えば、親戚の人や主治医の先生、それからケアマネジャーさん、ヘルパーさんなどにお世話になりっぱなしで、おんぶにだっこなわけですよ。ご近所さんなどにもずいぶん助けてもらっています。
遠距離介護と言えば聞こえはいいですけど、おためごかしというか、他人様(ひとさま)に全部お任せですから、ちゃんと親の面倒を見られない言い訳をしているみたいで、本当にこれでいいのかな、という思いも心のどこかにあったんです。
親の介護は子どもがするのが当たり前、という世間的な風潮もあるじゃないですか。実際、介護のために親を引き取る方も、仕事を辞めて実家に帰る方もいますし。だから自信がなかったんです、母を遠距離介護していることに対して。ちょうどそんなときテレビでご一緒させていただいて、私、川内さんに言われたんですよ。