自分流の「見事な最期」。日本人は、もっとわがままになっていい【医師で作家の鎌田實さんが語る】

定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「適度の「わがまま」はかっこいい」です。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年10月号に掲載の情報です。

自分の遺産を何に使うか?

今年、諏訪中央病院に多額の寄付をしてくれた美津子さんという女性がいました。

「あたたかい医師を育ててもらいたい」

そんな思いを込めて、遺産を病院に寄付してくれたのです。

資産家というわけではありません。

お父さんの介護をしながら独身のまま、福島県のある病院のソーシャルワーカーチームのクラーク(※1)という仕事をしてきました。

その後、病院が関わっている精神障害や身体障害のある人、知的障害のある人が社会で生活するための共同住居を、友人たちと運営し始めました。

55歳で定年退職するまで、共同住居の運営の中心として働き詰めでした。

遺産は、一生懸命働いて得たお金です。

※1 医師や看護師などをサポートする仕事。

つらい体験で芽生えた問題意識

ところが、73歳のときに転機が訪れます。

緑内障の手術を受けましたが、経過が思わしくなく、病状は徐々に悪化し、目が見えなくなってしまったのです。

ショックだったと思います。

「なぜこうなったのか、もっと説明をしてもらいたかった」

納得できない気持ちが消えず、医療がもっとやさしさを取り戻してほしいという思いが強くなっていったといいます。

彼女は、視力を失う前に、僕の『がんばらない』(集英社)を読んでくれていたそうです。

目が見えなくなってからは、NHKラジオの「鎌田實いのちの対話」(2003年~12年に放送)などを聴いてくれていました。

僕が、彼女のふるさと福島で講演するときには、ボランティアの方に介助されながら、車いすで何度もやってきました。

楽屋に入ると「顔を触らせて」といい、僕の髪の毛や髭を両手で抱えるようにして触っていきます。

これが彼女の"あいさつ"でした。

「暗ヤミの日々 ラジオ 相手に 独語 空笑 げんきです 美津子」

定規を当てて、勘で字を書くので、重なったり、はみ出したり、彼女の苦労がよくわかりました。

僕も必ず返事を書きました。

「ミノ先生 ありがとう 不自由をつねと思ってたのしんでいます。2021年1月吉日」

「先日、ミノ先生の夢を見ました。どうぞご無事で」

こうやって3カ月に一度ほど手紙をやりとりしました。

そのなかで、「あたたかい医師を育ててほしい」という思いが強くなっていきました。

「できれば、福島の医療の応援を少しでもいいからしてもらえたら最高」ともいう彼女に、諏訪中央病院を辞めて福島県の病院に就職した元大学教授の有名なドクターが、若い医師の教育研修に汗を流しているという話をすると、美津子さんはうれしそうでした。

最後まで自分流を徹底

別れは突然やってきます。

大動脈解離を発症。

かつて一緒に働いたソーシャルワーカーの方が働いている病院で手厚くケアを受けたものの、残念ながら帰らぬ人となりました。

88歳でした。

病院に遺産を贈りたいという知らせを受けたのは、その後でした。

彼女が持っていた現金は諏訪中央病院に、彼女の土地や建物はグループホームを運営する社会福祉法人に寄贈されました。

信頼する司法書士と相談をして、自分の死後、自分が持っているものが役に立つことを願って、準備をしていたのです。

亡くなった後、葬儀に出席してほしいと声をかける方も、本人が指定していました。

葬儀では諏訪中央病院からの感謝状が壇上に飾られ、僕と美津子さんの二人で撮った写真が飾られていました。

彼女が棺に入れてほしいといっていた僕の『がんばらない』も置かれていました。

最後まで自分流。

美津子さん、見事でした。

寄付という形の「意思表示」

現在、美津子さんが住んでいた家はグループホームとして利用されています。

精神障害や知的障害のある人たちの共同住居という先進的な運動に取り組んできた美津子さんの思いは、見事に後輩たちにバトンタッチされました。

諏訪中央病院も大きな金額の寄付で驚きましたが、故人の気持ちをつなげていくためにも、ありがたく受けとりました。

「あたたかい医師を育ててほしい」という大事な宿題に、しっかりと応えていかなければなりません。

もっと「わがまま」になろう

日本人は、もっと意思表示をしていいと思っています。

例えば、病院で標準治療を示されても、「それでは今の生活ができなくなるから、いやだ」といっていいのです。

年をとったからといって、おとなしくふるまっている必要もありません。

もっと自由に「わがまま」をいっていいのです。

自分のお金をどう使うかということも、「自己表現」であり、社会に対する「意思表示」です。

認知症になって判断能力が大幅に低下していると判断されると、保有する金融資産は凍結されてしまいます。

その額なんと175兆円。

身寄りがないため遺産相続できず国庫に入るお金は、年間647億円といわれています。

僕たちは、ゼロで生まれてゼロで死んでいく。

あの世にお金をもっていくことはできません。

お金をうまくバトンタッチできれば、思いもうまくバトンタッチできると、僕は思っています。

9月刊行の『ちょうどいいわがまま』(かんき出版)では、自分の「わがまま」を大切に、自分流に生きようと呼びかけました。

とかくマイナスのイメージが強い「わがまま」ですが、みんなが適度にわがままになることで、日本はもっと生きやすく、そして楽しくなると思っています。

自分流の「見事な最期」。日本人は、もっとわがままになっていい【医師で作家の鎌田實さんが語る】 2310_P117_02_W500.jpg自分流の「見事な最期」。日本人は、もっとわがままになっていい【医師で作家の鎌田實さんが語る】 2310_P117_03_W500.jpg

諏訪市原田泰治美術館にて「テレビ寺子屋」の収録。10月より順次フジテレビ系列にて全国放送予定。

《カマタのこのごろ》

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ももいろクローバーZの高城れに、テツandトモ、さだまさしと高校生を応援。

風に立つライオン基金の高校生ボランティア・アワード2023が開催されました。2016年から行われていますが、毎年感じるのは、高校生たちの積極性。自分の意見をもち、質問の手もあがり、年々活発になっているように感じています。コロナ禍を経て、今年は新宿の会場で久々のリアル開催。高校生たちも、会場の盛り上がりを満喫したようです。

文・写真/鎌田 實

 

<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。

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『ちょうどいいわがまま

(鎌田 實/かんき出版)

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