「息子が母親を殴りつける場面に遭遇したことも」介護のプロと柴田理恵が語る「介護虐待の事情」

「息子が母親を殴りつける場面に遭遇したことも」介護のプロと柴田理恵が語る「介護虐待の事情」 柴田理恵さん、川内潤さん
撮影:津田聡

川内:そうなんです。親が弱り、衰え、壊れていく姿を目の当たりにした子どもは、昔を知っているだけに、なかなかその現実を受け入れられない。それで親に対する不安や恐れや嫌悪などの感情に苛(さいな)まれ、イライラを募らせてしまう。

柴田:わかります。だから喧嘩になる。

川内:それでストレスを溜め込み、介護疲れの果てに親への虐待(ぎゃくたい)や暴力に走ってしまう悲劇も起きたりするんです。厚生労働省の調査でも、それが表われています。

柴田:そういう話ってよく聞きますよね。

川内:実際に、老年のお母さんを息子さんが殴(なぐ)りつける場面に遭遇し、慌てて制止したこともあります。たまの帰省ならお互いに我慢もできるし、喧嘩になってもすぐ帰っちゃうから、その場限りで済むかもしれないけれど、一緒に暮らして四六時中顔を突き合わせるとそうはいきません。抑えがきかなくなって、ぶつかっちゃう。

柴田:「こんなに頑張っているのに、なんでわかってくれないんだ!」という思いが、怒りや嫌悪や憎しみの感情を呼び起こしちゃうのかなあ。切ないですね。

川内:親への虐待や暴力は、息子さんが母親に対して行なうケースが多いです。変わってしまった母親に対する複雑な心情が、そうさせるのではないかと思います。

なかには、認知症になった母親に対して、「自分は子どもの頃からできの悪い息子だったから、いまになって呆(ぼ)けたふりをして、自分に仕返しをしているに違いない」などと見当違いの妄想を膨らませてしまう人もいます。ですから男の人は母親にきつくあたりがちだと知っておくといいと思います。

柴田:そうした傾向があると知っておくことで抑止効果があるんですね。

川内:そうです。

柴田:娘さんが親に虐待や暴力をふるってしまうようなケースは?

川内:比較的少ないです。変わってしまった親の姿を息子さんよりは客観視できて受け入れやすいのかもしれません。

 

NPO法人となりのかいご代表理事 代表理事 川内潤さん
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。14年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。厚労省「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム事業」委員、厚労省「令和4・5年中小企業育児・介護休業等推進支援事業」検討委員。介護を理由に家族の関係が崩れてしまうことなく最期までその人らしく自然に過ごせる社会を目指し、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、共著に『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)などがある。


柴田理恵(しばた・りえ)
女優。1959年、富山県に生まれる。1984年に劇団「ワハハ本舗」を旗揚げ。舞台やドラマ、映画など女優として幅広い作品に出演しながら、バラエティ番組で見せる豪快でチャーミングな喜怒哀楽ぶりや、優しさにあふれる人柄で老若男女を問わず人気を集めている。
また、こうした活躍の裏で2017年に母が倒れてからは、富山に住む母を東京から介護する「遠距離介護」を開始。近年は自身の体験をメディアでも発信している。
著書には、『柴田理恵のきもの好日』(平凡社)、『台風かあちゃん――いつまでもあると思うな親とカネ』(潮出版社)などのほか、絵本に『おかあさんありがとう』(ニコモ)がある。

※本記事は柴田理恵著の書籍『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)から一部抜粋・編集しました。

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