川内:そうなんです。親が弱り、衰え、壊れていく姿を目の当たりにした子どもは、昔を知っているだけに、なかなかその現実を受け入れられない。それで親に対する不安や恐れや嫌悪などの感情に苛(さいな)まれ、イライラを募らせてしまう。
柴田:わかります。だから喧嘩になる。
川内:それでストレスを溜め込み、介護疲れの果てに親への虐待(ぎゃくたい)や暴力に走ってしまう悲劇も起きたりするんです。厚生労働省の調査でも、それが表われています。
柴田:そういう話ってよく聞きますよね。
川内:実際に、老年のお母さんを息子さんが殴(なぐ)りつける場面に遭遇し、慌てて制止したこともあります。たまの帰省ならお互いに我慢もできるし、喧嘩になってもすぐ帰っちゃうから、その場限りで済むかもしれないけれど、一緒に暮らして四六時中顔を突き合わせるとそうはいきません。抑えがきかなくなって、ぶつかっちゃう。
柴田:「こんなに頑張っているのに、なんでわかってくれないんだ!」という思いが、怒りや嫌悪や憎しみの感情を呼び起こしちゃうのかなあ。切ないですね。
川内:親への虐待や暴力は、息子さんが母親に対して行なうケースが多いです。変わってしまった母親に対する複雑な心情が、そうさせるのではないかと思います。
なかには、認知症になった母親に対して、「自分は子どもの頃からできの悪い息子だったから、いまになって呆(ぼ)けたふりをして、自分に仕返しをしているに違いない」などと見当違いの妄想を膨らませてしまう人もいます。ですから男の人は母親にきつくあたりがちだと知っておくといいと思います。
柴田:そうした傾向があると知っておくことで抑止効果があるんですね。
川内:そうです。
柴田:娘さんが親に虐待や暴力をふるってしまうようなケースは?
川内:比較的少ないです。変わってしまった親の姿を息子さんよりは客観視できて受け入れやすいのかもしれません。