社会の中で生きやすくなる「郷に入らば郷に従え」の心/発達障害の仕事術

社会の中で生きやすくなる「郷に入らば郷に従え」の心/発達障害の仕事術 pixta_36274505_S.jpg仕事や人間関係がうまくいかない...「もしかして自分は大人の発達障害なのでは?」と悩む人が増えています。しかし、その解決策を具体的に示した本は少ないのが現状です。

本書『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』は発達障害の当事者が、試行錯誤と度重なる失敗の末に身につけた「本当に役立つ」ライフハック集。うつでもコミュ障でも、必ず社会で生き延びていける術を教えます!

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あなたが所属する「部族の掟」を知ろう

空気、読めますか。僕は読めません。空気が読めないという症状はどちらかと言えばASDに多い症状だと言いますが、ADHDの診断を受けている僕も「空気が読めない」と言われ続けて生きてきました。そういうわけで、初めて勤めた会社でも空気を読み損なって大失敗しました。

かつて新卒として就職したときは、「そもそも仕事ができない」などの大問題はあったのですが、それに加えて常軌を逸した空気の読めなさを遺憾なく発揮し、新卒としては記録的な速度で職場の嫌われ者になることに成功。見事誰も好意的に接してくれない、必要な情報すら回ってこないという状況に到達しました。本当に早かった。3カ月とかからなかったですね。結果、僕は2年もたずに職場から敗走することになりました。

例えば、僕は新人歓迎会で上司にお酌をせず、ひたすら飲んでいました。料理の取り分けなど一切やりませんでした。そういったささやかな積み重ねが、1日を台なしに、1年を台なしにしました。

職場というのは、言うなればひとつの部族です。このことをまずしっかりと理解してください。そこは外部と隔絶された独自のカルチャーが育まれる場所です。そして、そこで働く人の多くはそのカルチャーにもはや疑いを持っていません。あるいは、疑いを持つこと自体がタブーとされていることすらあります。それはもう正しいとか間違っているみたいな概念を超えて、ひとつの「トライブ(部族)」のあり方そのものなんです。言うまでもありませんが、それは排他的な力を持ちます。部族の掟に従わない者は仲間ではない、そのような力が働きます。

これまで僕は自分の会社も含めて金融機関から飲食店、不動産屋まで、それなりの数の職場を見てきましたが、職場におけるカルチャーというのは本当に千差万別です。コモンセンスも、あるいは価値観も、仕事の進め方も何もかもが全く別物です。例えば、ハンコの押し方ひとつ取ってもそうです。ある会社では、「上司に渡す書類には完璧に押されたハンコが必要である」と信仰されています。そのハンコは、少しだけ上司の押す場所に向かって傾いているのが望ましい(おじぎなどの概念が導入されます)とされていたりします。

また、ある会社ではハンコなんてものは赤いシミがあればそれで十分とされていたりもします。判読不能なハンコを押された書類が何の問題もなく流通している職場も、僕は見たことがあります。

「空気を読む」とは、そのような部族の中に流れるカルチャーをいち早く読み取り、順応する能力です。僕にはこの能力が完全に欠けていました。欠けているだけならまだしも、そもそも順応する気がなかった。僕の失敗の一番致命的なところはそこだと思います。

仕事というのは、テキストと向かい合って情報をインプットするような作業とは全く別物です。例外はあるでしょうが、現場の日常業務というのは「誰かに教えてもらう」もしくは「見て盗む」のような習得方法が往々にして必要になります。

そして、業務習得や遂行の最高の潤滑油は「好意」です。業務上関わる多くの人間に好意を持たれることにさえ成功していれば、ハードルは一気に低くなります。もちもちろん、物事には限度があります。絶対に受け入れられない風習というものも存在し得るでしょう。僕も、今もう一度AKBを踊れと言われたらかなり悩み込むと思います。

世の中には「浜辺で全裸で踊り狂う」とか「致死的な量の酒を飲む」みたいな、そりゃさすがに尊重できねえわ、としか言いようのない文化を持った部族も存在します。給与や社会的な評価などを天秤にかけ、合わなければ即座に逃走しましょう。

また、部族の風習が法的に問題のある行為だったりすることもたまにあると思います。法治国家の住人として成すべきことを成しましょう。しかし、受け入れられるものはとりあえず尊重しましょう。それだけで、本当に多くのものが変わります。

一生懸命日本語を喋ろうとする外国人が好ましく映るように、その姿勢は伝わるものだと思います。まずは受け入れ、そして模倣しましょう。そして、敬意を示しましょう。生き残るために。やっていきましょう。

 

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借金玉(しゃっきんだま)

1985年生まれ。診断はADHD(注意欠陥多動性障害)の発達障害者。幼少期から社会適応が全くできず、登校拒否落第寸前などを繰り返しつつギリギリ高校までは卒業。色々ありながらも早稲田大学を卒業した後、何かの間違いでとてもきちんとした金融機関に就職。全く仕事ができず逃走の後、一発逆転を狙って起業。一時は調子に乗るも昇った角度で落ちる大失敗。その後は1年かけて「うつの底」から這い出し、現在は営業マンとして働く。


 

『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』

(借金玉/KADOKAWA)

社会生活がうまくいかず苦しむ「大人の発達障害者」が増えていると言われる現代日本。発達障害によって30歳を前に人生をほぼ破たんさせかけた著者が、試行錯誤で編み出した「発達障害者のため」の今日から使えるライフハックを多数紹介! 仕事や人間関係がうまくいかない全ての人のための「日本一意識が低い」自己啓発書です。

この記事は書籍『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』からの抜粋です
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