"伝説の家政婦"と呼ばれ、多方面で活躍するタサン志麻さん。築60年の古民家での暮らしをつづった著書『ちょっとフレンチなおうち仕事』(ワニブックス)には、フランスのエッセンスを取り入れた家事や育児を楽しむ方法がつまっています。今回はその中から、「忙しい日こそフランス料理は便利」という料理を楽にするヒントとお家で作れるフレンチレシピを連載形式でお届けします。
【志麻さんのフレンチの格言】
フレンチの味付けは基本、塩。だからわかりやすくて、料理がラク!
和食は、しょうゆに砂糖、酒、みりんなど、複数の調味料を組み合わせて味を決めます。
つまり、塩やしょうゆだけで味付けが完了することは、あまり多くありません。
でもフレンチは、基本、塩だけで味を決めます。
和食のように、しょうゆを増やしたら、みりんも増やしてなどと複雑に考える必要がないので、とてもシンプルです。
自分がちょうどいいと思える味まで、塩を加えればいい。
塩だけで味付けが完了する。
そう知ると気がラクになりませんか?
フレンチは、和食よりわかりやすいんです。
フレンチはラクと私が考える理由はそこにあります。
塩には、味を付けるだけでなく、素材のうまみを引き出す力があります。
最後にまとめて加えるのではなく、肉や魚、そして野菜のうまみを引き出すように、段階的に塩をすることが料理をおいしくするコツです。
ラタトゥイユを例にとると、最初に玉ねぎを炒めますが、炒めるときに、塩をひとふり。
そして玉ねぎがしんなり汗をかき、少し色づくまで炒めたら、残りの野菜を加えて、さらにひとふり。
この塩で野菜の水分を出させ、ゆっくり炒めてうまみを凝縮させます。
野菜に油が回ったらすぐにトマト缶詰を入れて煮る人も多いようですが、塩を加えてしっかり炒めることで、おいしさが変わってきます。
逆にトマトを入れてからはさっと煮るだけでOK。
そして味見をし、足りなければ、最後の塩で完成です。
とにかく、最初の塩が大事です。肉を焼くときも、先に塩をして、うまみを引き出すようにします。
どうせ塩だけなら、最後にまとめて入れればいいと考えてしまうかもしれませんが、まとめて加えると、うまみが引き出せません。
すると味を強くするためにたくさん入れる必要が生まれ、段階的に加えるよりも、結果的に塩が強くなってしまいます。
何度にも分けて塩を加えるのは、ちょっと面倒に感じられますか?
でも、ほかの調味料がいらないぶん、塩だけに集中できるはず。
珍しい調味料や変わった食材を使わず、これだけでぐっと料理がおいしくなるので、ぜひ、塩に意識を集中してみてください。
塩の分量を小さじやグラムで説明するのは、本当に難しいこと。
野菜の持っている水分、肉の脂身の量によっても変わってしまうので、一概には言えません。
最初にひとつまみ、ひとふり。
つどつど、そんな感じで加え、最後は自分がちょうどいいと感じるところまで。
最後の塩は迷ったら、加えなくてもいいです。
フランスの義母たちの食卓では、味が薄いなと感じるものもよく登場します。
そのために卓上には塩があり、最後は、自分の好みに食卓で完成させるのです。
そんなフランス流のごはん作りは、私たちの気持ちをラクにしてくれるはずです。
志麻さんのフランス料理レシピ
「ラタトゥイユ」
塩でしっかりうまみや甘みを引き出すので、野菜だけなのに、ハッとするおいしさ!
材料(2~3人分)
玉ねぎ...1個
なす...2本
ズッキーニ...1~2本
パプリカ(赤・黄)...各1個
トマト缶詰(400ml)...1個
にんにく...1かけ
オリーブオイル...適量
塩、こしょう...各適量
タイム、ローリエ(あれば)...各適量
作り方
① 鍋にオリーブオイルとつぶしたにんにくを入れ、香りを引き出すように熱する。
玉ねぎをみじん切りにして加え、塩をふってじっくり炒める(※)。
その間に、なす、ズッキーニ、パプリカを1~1.5cm角に切り、切った順に鍋に加えて炒める。
鍋に野菜がはりつくようなら途中オリーブオイルを加える。
塩をふって炒め、全体がくったりして、引き出された野菜の水分が飛びきるまで炒める。
(※)炒めるというより、ときどき混ぜる程度で大丈夫。その間に次の野菜を切ると効率がよい。
② トマト缶詰を加え、実をつぶす。
水100~200mlで缶の内側をすすいでから、その水、タイム、ローリエを加えて弱火で煮込む。
全体にトマトがなじんだらOK。
味をみて足りなければ塩、こしょうで味をととのえる。
<ポイント>
野菜の水分が飛んで、全体がくったりするまで炒め、うまみを引き出してからトマト缶詰を加えます。
【まとめ読み】『ちょっとフレンチなおうち仕事』リストはこちら!
料理、子育て、家仕事など、フランス流を取り入れた著者のライフスタイルが4章にわたって紹介されています