原油価格の下落が続き、4月には原油が「マイナス価格」になったことがニュースになりました。ガソリンが安くなっていることで、実感した人もいるでしょう。この背景には何があったのでしょうか? 経済ジャーナリストの山本 学(やまもと・まなぶ)さんに詳しくお話を伺いました。
買う人が商品もお金ももらえる特殊な状況に
思い当たるのは新型コロナウイルス感染症の影響ですが、経済ジャーナリストの山本学さんは「新型コロナの影響拡大前から、原油価格は下落傾向でした」と指摘します。
原油価格は需要と供給のバランスによって変動するため、産油国は供給過剰のときは減産することで、価格をコントロールしようとします。
しかし、3月上旬に行われた中東の産油国などで構成するOPEC(石油輸出国機構)とロシアなどのOPEC非加盟の産油国での協議で、減産の合意ができませんでした。
「大規模な産油国であるサウジアラビアが、減産の提案に乗らないロシアと対立したためと言われています」と、山本さん。
これにより、今年初めと比べ、原油価格は半額程度にまで落ち込むことになりました。
その後、新型コロナの影響が欧米にも拡大。
原油の需要が激減し、価格がさらに下落していくことになり、4月20日には売り手がお金を払って商品を引き取ってもらう「マイナス価格」の状況が発生しました。
原油は売れ残っても、環境汚染につながるため簡単に廃棄処分にできません。
貯蔵しておくにも、どこの石油タンクも満杯で難しい。
そのため、このような状況になったのです。
「OPECとロシアなど非加盟国は4月上旬に原油減産で合意していましたが、減産開始は5月。4月中は減産しないため、かえって『原油が余っていること』が印象付けられてしまったのも理由の一つです」と、山本さん。
5月に入り大規模な原油の減産が始まりましたが、新型コロナの影響で減った需要はすぐには回復しないため、供給過剰の解決にはまだ時間が必要です。
「今後しばらくの間、原油価格は横ばい、あるいは上がったとしても小幅な上昇で推移するのでは」と、続けます。
原油価格下落と「マイナス価格」の背景
3月上旬:原油減産の合意ならず
原油価格の下落を減産で対応しようと協議していたOPEC(石油輸出国機構)とロシアなどOPEC非加盟国ですが、減産で合意できず、原油が供給過剰の状態に。
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3月中旬ごろ~:新型コロナの影響拡大
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4月20日:原油がマイナス価格に
原油は「先物相場」で取引され、価格が決定します。価格安定のため、将来原油を受け渡す日の価格を事前に売買して決めているのです。取引参加者が多い米・ニューヨークの先物相場が世界の原油取引の指標になっているのですが、この先物相場で4月20日に原油が史上初の「マイナス価格」に突入しました。
私たちの暮らしにはどのような影響が?
この原油価格の下落は、私たちの暮らしにどのような影響を与えるのでしょうか。
「日本で使用する原油は、ほぼ全ての量を海外からの輸入に依存しているので、原油価格が下がるということは、日本の経済にとってはいいことだと言えます」(山本さん)
日本では原油を上記のようにさまざまな用途で使用しています。
原油価格が下がれば、ガソリン代や電気代、ガス代だけではなく、さまざまな製品の価格が下がることにつながります。
原油価格が今後横ばい、あるいはやや上向きになったとしても、実際に物価に反映されるまでには時間差が発生します。
「新型コロナの影響で4、5月は経済活動が停滞していたため、経済や家計への影響は限定的でした。
しかし緊急事態宣言が解除され経済が回り出した6月以降はしばらくの間、物価などで原油価格下落の恩恵を受けられる可能性があります」(山本さん)自粛で打撃を受けた日本経済にとって、原油価格下落は一つの好材料と言えそうです。
原油価格下落で暮らしはどうなる?
ガソリン代も安くなる!
ガソリンの価格にも影響が。レギュラーガソリンの店頭価格の1リットルあたりの全国平均は、1月20日時点で151.6円だったのが5月11日時点では124.8円と、15週連続で下落しました。
電気代・ガス代が安く!
電気料金は、燃料価格の変動に応じて自動的に調整が行われるため、原油価格の下落に連動して安くなります。ガス料金も原油価格の変動に連動して上下することが多い。
物価にも影響する!
洗剤やプラスチックなどの化学製品の価格にも影響します。意外なところでは、ビニールハウスの暖房や耕運機の燃料にも影響するため、食品価格にも影響が出ます。
取材・文/仁井慎治 イラスト/やまだやすこ