全国の小売店で7月1日よりプラスチック製レジ袋が有料化されます。前倒しで始めている大手小売店もあるため、お店にエコバッグなどの買い物袋を持参している人も多いのではないでしょうか。このプラスチック製レジ袋の有料化が国により義務付けられた背景には、ごみの削減、ごみ焼却処理時に発生する二酸化炭素といった温室効果ガスによる地球温暖化への影響などの問題があります。中でも大きな理由の一つとされているのが、マイクロプラスチックの問題です。この問題に詳しい東京農工大学の高田秀重先生に話を聞きました。
小さなプラスチックが流されて海へ
マイクロプラスチックとは、5mm以下にまで小さくなったプラスチックを指すそうです。
日本ではプラスチックのリサイクルが進んでいるように見えますが、実際はごみ箱から風で飛ばされたり、カラスがごみ捨て場から持ち去ったりといった理由で路上に投げ出され、最終的には川から海に一部が流れ出てしまっています。
上の写真を見てみましょう。
2016年に撮影された東京・荒川の河口ですが、これだけの量のプラスチックが回収されずに海へ流れ出ようとしているのです。
「海に流れ出たプラスチックは紫外線や波の力で劣化し、細かくなっていきます。近年、このマイクロプラスチックが北極から南極までの海全体に大量に浮遊していることが分かってきました」(高田先生)
続いて、上の写真を見てみましょう。
気象庁が日本列島から1000km離れた太平洋上で採取したマイクロプラスチックです。
このようなものが、いまでは世界中の海に浮いているのです。
私たちへの影響と今後の心構えとは?
問題は、海への汚染だけではありません。
「いちばんの問題は、生物がエサと間違えてあるいはエサと区別することができずに食べてしまい、体内に取り込んでしまうことです」と、高田先生。
海鳥にウミガメやクジラ、魚など、200種類以上の海の生物の体内からプラスチックが検出されています。
クジラや海鳥が体内に取り込むのは比較的大きなものですが、マイクロプラスチックだと、小魚や貝類といった小さな生物も取り込んでしまいます。
そうなると、このような海の生物を食べた私たちの体内に、マイクロプラスチックが入り込んでしまうことも考えられます。
マイクロプラスチックは私たちの体内にたまることはなく、やがて排泄されるのですが、問題はマイクロプラスチックが私たちの体内に蓄積するのかどうかにはありません。
その中に含まれる、有害化学物質にあります。
「プラスチックにはさまざまな添加剤が加えられていて、その中には人体に有害なものもあります。海に浮かぶマイクロプラスチックにも、この添加剤が残留していることは分かっています」(高田先生)
例えば、化学物質の中には、体内で女性ホルモンのように振る舞い、人体のホルモン系を乱す内分泌攪乱物質と呼ばれるものがあります。
プラスチックの添加剤には、この内分泌攪乱物質が含まれていることがあります。
さらに、「海水中には、非常に低い濃度ですが残留性有機汚染物質が溶け込んでいます。近年の研究で、プラスチックはこれらを海水から吸着し、高い時は約100万倍にまで濃縮することが分かっています」と続けます。
これらは人体に悪影響を与えるのでしょうか。
高田先生は「人体に取り込む経路はほかにも考えられるため因果関係の証明が難しいですが、プラスチックに含まれる有害化学物質の影響は過小評価すべきではありません」と、警鐘を鳴らしています。
「世界的に使い捨てプラスチックの使用禁止や使用量の削減が進んでいて、日本でも国が先導して取り組むことが必要です」と、高田先生。
レジ袋有料化は、その第一歩といえるでしょう。
それでは、今回有料化されるプラスチック製レジ袋とは、どのようなものなのでしょうか。
下の表を見てみましょう。
有料化の対象となるプラスチック製レジ袋
※経済産業省「レジ袋有料化 Q&Aガイド」より作成
対象になるのは、購入した商品を持ち運ぶために用いる、持ち手のついたプラスチック製袋です。
生鮮食品を入れるための持ち手のないプラスチック製袋や紙袋、商品ではなく景品や試供品を入れるための袋は対象外です。
価格ですが、国は1枚あたり1円以上と規定しており、すでに有料化を進めている大手小売店では、サイズにもよりますが、1枚あたり2~5円のケースが多いようです。
国はレジ袋有料化の目的を「消費者のライフスタイル変革を促すこと」としています。
お金を払えばプラスチック製レジ袋はいままで通り手に入るのですが、目的や背景を考えると、やはり買い物袋の持参が望ましいのです。
取材・文/仁井慎治