同居や介護、相続など、親との関わりがより深まってくる40~50代。でも、それ以前に「親子の関係」がギクシャクしているとまとまる話も、なかなかまとまりません。そこで、親子の間にわだかまりが生まれるのは、「そもそも親に原因がある」と説く人気心理カウンセラー・石原加受子さんの著書『「苦しい親子関係」から抜け出す方法』(あさ出版)から、苦しみの原因と解決策を連載形式でお届けします。あなたのお家は大丈夫ですか?
「心」が軽視されている時代
社会は、個々の人間の集まりによって形成されます。個人の言動が、人に影響を与え、その人はさらに他の人に影響を与えていきます。同様に、社会の在りようが、個人に影響を与えます。
このように個人と社会は相互に作用し合っています。つまり個の問題は、社会の問題でもあり、社会の問題は、個の問題でもあるのです。
私たちが生きる社会には、昔からはっきりした上下の身分制度があり、軍隊のように階級があるわけではないものの、暗黙の序列がありました。
例えば夫は家庭よりも仕事が大事、妻は夫を立てるのが当たり前、子どもは親の言うことに従うのが当たり前という教育がされていました。家長制度、男尊女卑がその代表です。
この序列が払拭されたかと言えば、決してそんなことはなく、現代は、「監視社会」という言葉が生まれてきているように、さまざまな決まり事や禁止事項が増えるばかりで、「ああしてはいけない、こうしてはいけない」という目に見えにくい禁止社会になっています。
憲法では基本的な人権が保障されているものの、あらゆる面で「お互いを認め合う」基本的権利は、ここにきていっそうないがしろにされている感もあります。
従来の全体主義から、民主主義に変わって久しいものの、「心」という観点からすると、資本主義下の競争社会では、その言葉が虚しく響くほど、「心」が粗末に扱われているのではないでしょうか。
それに拍車を掛けるように、急速な勢いで情報社会が到来し、人間の精神がこうした変化に対応できずにいるようです。
競争社会になれば、学校でも仕事でも、「勝ち負け」がはびこります。
「勝ち負け」の世界では、「心」は軽視されます。むしろ、「勝つ」ことや「お金儲けをする」ことや「出世する」ことを達成するには、心は邪魔です。
心の豊かさや幸福度という尺度においては、「金、成功、出世、地位、名誉」といった物質的なものの達成で得られる満足度よりも、「心」あるいは「愛」によって得られる満足度のほうが、その質ははるかに高いと言えるでしょう。
けれども物質的な満足の追求にひた走っている昨今においては、「心」や「愛」といったものに対する感度が低下しつつあり、心の豊かさや質の高い満足感といったものは軽視され、置き去りにされています。
また、IT社会では、「情報や言語」や「知識、思考」が優先されるようになり、ここでも、「心」は邪魔者扱いです。
本来、社会がどのような状況であれ、「心」は最も優先されるべきものであるはずです。にもかかわらず、実際には、社会構造そのものが、「心」を切り捨てていかざるを得ない状況を生んでいるのです。
繰り返されてきた我慢がゆがみとなってあらわれている
かつての社会では、個人の意志は尊重されずに、国民は国のために存在していました。その呪縛からなかなか抜け出せない人たちが、他者に従い、他者や周囲に合わせようとする一方で、その精神的苦痛の帳尻合わせとして、同じことを自分の子どもに要求したり強制したりするというように、依然として過去の「全体主義」的な意識から解放されないでいます。
「でも、昔は、お国のため、みんなのためにやっていたのに、平和だったじゃありませんか」
そう反論する人がいます。一見、そのように見えるかもしれません。けれども昔は、序列が明確でした。
「国が決めたことだから、従うのが国民の義務だ」
「学校で言われることは正しいんだから、必ず守らなければならない」
「会社は城で、社長は城主だ。だから臣下の社員は、城主に尽くさなければならない」
「夫がそう言うのであれば、黙って従うのが妻の役目だ」
こうした上下関係が常識だったので、仮に疑問を抱いたとしても、従うしかなかったというのが真相ではないでしょうか。
つまり、当時は、全体を優先して個を後回しにすることが、当然のこととして受け入れられていました。だから心理的葛藤が少なかったということでしょう。それを前提とした秩序であり、平和だったのではないでしょうか。
むしろ、国のため、社会のため、会社のため、家族のためという「他者中心」システムの中、誰かが我慢しながら、自分を犠牲にしてきた、そんな「犠牲」が連綿と繰り返されてきたゆがみが、いま、親子関係にあらわれているとも言えるのです。
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