同居や介護、相続など、親との関わりがより深まってくる40~50代。でも、それ以前に「親子の関係」がギクシャクしているとまとまる話も、なかなかまとまりません。そこで、親子の間にわだかまりが生まれるのは、「そもそも親に原因がある」と説く人気心理カウンセラー・石原加受子さんの著書『「苦しい親子関係」から抜け出す方法』(あさ出版)から、苦しみの原因と解決策を連載形式でお届けします。あなたのお家は大丈夫ですか?
「私の望みを、あなたが叶えてね」
多くの母親が「我が子だけには、私のような苦労をさせたくない」と思っています。せめて子どもだけは「自由に生きてほしい。生き生きと輝いた人生を送ってほしい。自分の好きなことをやってほしい」などと願います。
言葉だけ見ると、とても子どもを大事にしているように思えます。しかし実際には、その「願い」そのものが子どもの心の自由を奪っています。
「私は我慢してばかりいたから、子どもには思い通りの人生を生きてほしい」
「学校で成績が悪くて引け目を感じていたから、子どもには優秀でいてほしい」
「出身校に劣等感を抱いていたから、我が子には、そんな思いをしてほしくない」
といった、自分が果たし得なかった理想を、子どもに押しつけて、「私の望みを、あなたが叶えてね」と言っているのです。
自分の望みや理想を、子どもに期待すること自体が、すでに子どもの自由を奪うことになるのですが、母親はそれに気づきません。逆にそれが「良い母親」と思い込んでいる人も多いでしょう。
どんなに素晴らしい望みや高邁な理想であれ、自分がそれをめざすのではなく、子どもにそれを押しつけてしまえば、それは子どもの選択の自由を奪うことになります。
その目的がどんなに立派でも、子どもに選択の余地を与えないのは、子どもの自由の侵害です。
しかも子ども自身がそれに気づかなければ、親の期待にこたえられない自分を、不孝者のように感じるでしょう。親の思いに反して、自分の意志を大事にしようとすると、親を裏切るような気持ちに襲われるでしょう。
子どもが自分らしく生きようとすることは至極真っ当なことなのに、まるで悪いことをしているかのように罪悪感を覚えて自分を責めるのです。
それは自分の心の縛り方を教えているだけ
母娘の問題で言うと、母親がそうやって子どもに自分の願いや理想を押しつけようとするのは、母親自身が諸々の制約で自分の心を縛っているからです。
母親がどんなに、「子どもには苦労させたくない。自分の理想通りの子どもになってほしい。自分の好きなことをしてほしい」と願ったとしても、やっていることは、「自分の心を縛る」方法を教えているだけです。それはまた、母親自身も「従う」ことを長年行っていることに他なりません。
前回、娘が母親に「お金貸してよ」という例を挙げ、親は断ることができないと述べました。
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そう言われると、母親は、「イヤだ」という気持ちを不満顔や不快な態度で示したり、「でも」という気持ちで憎まれ口を叩きながら、きっぱり断ることができずに、結局は、「(貸して)あげる」ことになります。母親はそうやって否定的、拒否的な態度をとったり、不快な言葉を娘に浴びせながらも、子どもの要求に従っています。
母娘の関係で最も好ましくないのが、このパターンです。
他者中心(他者を自分の判断、行動の基準にする)の生き方をしていると、「きれいにきっぱりと断る」ことができません。イヤミや仕返し的な言葉で言い返したとしても、結局は相手に従ってしまうのです。
母や娘だけでなく、家族の誰もが、このようなパターンを学習してしまっています。これが「相手に従う」ということなのです。このパターンは、そのまま社会での言動にも適用されます。そしてかなり高い確率で、トラブルを引き起こす元凶となっています。
娘は感謝どころか、仕返しをもくろむ
毅然と断ることができない親は、子どもの要求に従ってしまいながらも、その態度や表情は、決して肯定的ではありません。そしてそのことが子どもの心を傷つけるのですが、親はそれに気づいていません。
一般的には、お金を貸してもらえたら、「ありがとう」と感謝するでしょう。しかし、母親のような態度をとられれば、お金を貸してもらったとしても、傷つきます。言い方を換えると、子どもは、自分を受け入れてもらっていない、愛されていないと感じるのです。例えばそのとき、「もう、あなたは、いつもこうなんだから」とイヤミを言いながらお金を渡せば、それは言外に、「そうやって、いつも親に迷惑をかけて、だからあなたは、ダメな娘なのよ」と言っているようなものです。
そうやって傷つけられれば、感謝するどころか、「お金を返したい」とは思わないでしょう。むしろ返さないことが、娘にとっては、母親から傷つけられた"仕返し"となるからです。
どのような場合でも、争っていれば必ず心は傷つきます。
傷つけば、どこかで仕返ししたいと思うでしょう。傷つけられたというネガティブな思いが解消されない限り、無意識のうちに、そのチャンスを狙うのです。もちろんそれで、その思いが解消するかと言えば、そんなことはありません。
私たちは本来、協力し合いたい、助け合いたいという欲求を持っています。けれども、両者が最初から相手に対して否定的な気持ちでいれば、相手の役に立ちたいという気持ちも起こりません。
そういった意味で、「相手を傷つけながら、お金を貸す」という行為は、お互いに協力し合うことも感謝し合うこともない、非常に不毛な行為なのです。
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