環境に良さそうだけど...人気の「ナチュラル系洗剤」の洗浄効果は?

「ジェルと炭の消臭剤ってどっちがいい?」「部屋干し用洗剤って普通のと何が違う?」など、ふだんの暮らしで浮かんでくる日用品の小さな疑問。化学成分と洗浄化学の専門家・かずのすけさんの著書『秒でわかる! 最強の家事―暮らしは、化学でラクになる!』(ワニブックス)から、その答えを連載形式でお届けします。これさえ分かれば「何となく...」で買っていた日用品の選び方が変わってくるかも。

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石鹸系洗剤は人気だけど人にも地球にも優しくない

石鹸系の洗剤は洗濯にも環境にも優しそうなイメージからか、非常に人気があります。しかし、一般的に売られている合成洗剤類と比較して、石鹸系洗剤にそれほど大きなメリットがあると言えないのが本当のところ。確かに、油汚れやタンパク質汚れに効果的で、洗浄力もありますが、硬水では使えず石鹸カスが残留しやすく、ウールやシルクなどアルカリ性に弱い繊維は洗えません。

また、世間的な界面活性剤への不信感を逆手にとってか「石鹸は界面活性剤ではありません」といった謳い文句で販売している石鹸系洗剤もありますが、石鹸は立派な界面活性剤の1つ。多くの合成洗剤と同じく陰イオン界面活性剤の一種で、油脂と苛性ソーダ(水酸化Na)を反応させて合成する化学物質です。

雑菌などの微生物の分解性(生分解性)が高いのは良い点ですが、通常の合成洗剤に比べて一度の洗濯に必要な使用量が圧倒的に多く、その分排出量や生産量が増えれば湖沼への負荷も原料の消費量も増えるため、決して地球に優しいとも言えないのです。

ナチュラル系洗剤は入れても入れなくても同じ!?

最近では「サンゴの粉」や「金属の粒」などを利用したナチュラル系洗剤が一部で流行っています。細かい成分の話をすれば、「サンゴの粉」の主成分は「炭酸カルシウム」という微アルカリ性の成分。「金属の粉」は「マグネシウム」の粒を使っているものがあり、マグネシウムは水と反応すると「水酸化マグネシウム」というアルカリ成分を生成します。ナチュラル系洗剤の成分を見ても同じく「アルカリ」を生成するものがだいたい利用されていて、皮脂やタンパク質はアルカリ性で洗浄しやすいという特性を利用したものと考えることができます。

しかし実はこれらのナチュラル系洗剤、大半が洗剤としての機能は非常に弱いもの......。炭酸カルシウムであれば通常の水への溶解性はとても小さいですし、金属マグネシウムは空気中の酸素などと反応して酸化マグネシウムなどの被膜を作っている場合がほとんどで、これも水にとても溶けにくいのです。結局ナチュラル系洗剤で衣類が洗えているのは、ほとんどが「洗濯機の性能」に依存しているのが実際で、水だけで洗ってもあまり変わらないという意見も......。

ナチュラル系洗剤ってちゃんと洗えるの?

最近人気のナチュラル系洗剤。どのような成分があるのか、確認しておきましょう。

●マグネシウム(金属マグネシウム)
理論上ではマグネシウムが水に溶けた際に生成される水酸化Mgのアルカリ性によりアルカリ洗浄が可能。上手く水に溶けない場合は洗浄力はさほど高くない。複数入れて無理にpHを上げると衣類ダメージが上がるので注意。

●重曹(炭酸水素ナトリウム)
水に溶けにくい微アルカリ性の粉末。pH=8程度なので洗浄力は非常に弱い。研磨剤になる。粉末が残留すると皮膚刺激も。

●アルカリ電解水(水酸化Na)
食塩水を電気分解して得られる溶液で、強アルカリ性の水酸化Na水溶液。pHは9~10 程度のものから12~13程度の強力なものもある。市販のものは濃度が不明なので注意が必要。「水酸化カリウム」を主成分とするものも。

●サンゴの粉(炭酸カルシウム)
水に溶けにくい弱アルカリ性の白色粉末。中性の水にはほとんど溶けないので、洗濯用途で上手く効果を発揮するとは考えにくい。市販の「クレンザー」の主成分で、研磨剤として用いられている。重曹と似ている。

●ホタテ貝殻焼成カルシウム(酸化カルシウム)
ホタテ貝殻を高温焼成して生成する粉末。水に溶かすと水酸化カルシウムとなり、水溶液は強アルカリのpH=12.5程度を示す。素手での使用には注意が必要。粉末を吸入すると肺炎などのリスクがあり非常に危険。

●セスキ炭酸ソーダ(炭酸水素ナトリウム・炭酸ナトリウム)
重曹と炭酸ソーダの混合物。アルカリは10近いので油脂汚れ程度なら比較的落とせる。粉末残りに注意。

◎POINT
ナチュラル系洗剤は環境負荷に関しては少ないものの、洗浄機能はあまり高くありません。また中には皮膚刺激や繊維ダメージの大きいものがあります。効果の小さいものは洗濯機の機能だけでも十分洗える場合も。

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生活雑貨、洗濯用洗剤、掃除用品、ボディケア用品といった4テーマを解説。著者が推薦する25のアイテム紹介も

 

かずのすけ

1990年、福井県生まれ。京都教育大学教育学部を経て、2016年に横浜国立大学大学院環境リスクマネジメント専攻・洗剤洗浄科学研究室を卒業(環境学修士・教育学学士)。研究活動のかたわら、化粧品の企画開発、セミナー講師、執筆業などにも携わる。

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『秒でわかる! 最強の家事―暮らしは、化学でラクになる!』

(かずのすけ/ワニブックス)

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※この記事は『秒でわかる!最強の家事―暮らしは、化学でラクになる!』(かずのすけ/ワニブックス)からの抜粋です。

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