暴言に隔離...!?押さえておきたい「職場のパワハラ6類型」

身近な社会問題として注目を集める、パワハラ=パワーハラスメント。今や労使紛争のトップになったパワハラは、どうすればなくせるのでしょうか。カギとなるのは「命令する上司」から「動機付ける上司」への転換。10万人以上に講演・指導を行ってきた和田隆さんの『パワハラをなくす教科書』(方丈社)から、これだけは知っておきたい「パワハラをなくす方法」について、連載形式でお届けします。

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パワハラの6類型

厚労省は典型的なパワハラ行為を「職場のパワーハラスメントの6類型」と整理しています。これがパワハラ行為のすべてではありませんが、参考になりますので見ていきましょう。

(1)身体的な攻撃/暴行・傷害
(2)精神的な攻撃脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
(3)人間関係からの切り離し隔離・仲間外し・無視
(4)過大な要求業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
(5)過小な要求業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(6)個の侵害私的なことに過度に立ち入ること

(1)身体的な攻撃、(2)精神的な攻撃、(3)人間関係からの切り離しの3つについては、いかなる職場でも原則「業務の適正な範囲外」となります。殴ったり蹴ったり、脅したり、人格否定をする暴言を浴びせたり、個室に隔離したり。これらの行為は、どんな職場でも認められることではありません。

しかし、(4)以降は、各企業や職場で認識を揃え、その範囲を明確にしておく必要があると記されています。職種によってはときに、過大な要求をしなくてはならない場面もあります。例えば、医療現場などでは、患者の命を救うため、多少、無理なことでも要求しなくてはならないこともあるでしょう。消防や警察が、緊急のときに「ばかやろう!どけ!」と、乱暴な言葉で怒鳴りつけることもあるでしょう。

言葉だけを聞けばパワハラのようですが、一刻を争う現場で危険を伝えようとするときに、言葉を選んでいたら、命の危険にさらされる。その言葉自体がパワハラ的であったとしても、場所や状況によっては、乱暴な言葉のほうが伝達力が高いわけです。また、警察官などは職務上、職員の個人調査が必要な場合があるかもしれません。個の侵害も組織によって違うということです。

ハラスメントになるかならないか、職種によっても一概には言えない部分もあるため、職場の中で判断し、認識を揃えていく必要があるのです。

厚労省の職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループの第5回検討会資料によると、「裁判例において、不法行為責任あるいは債務不履行責任が問われた場合等の違法性等の判断にあたっては、次のような点が考慮されている」とまとめています。

◯指導監督・業務命令を逸脱した行為の有無
業務と明らかに関連性のない行為
権限の範囲を逸脱し、裁量権の濫用とされる行為
社会通年上許容される業務指導の範囲を超えた行為(手段、態様)

◯行為者の動機・目的・受け手との関係
不当な動機、目的に基づくもの(例:指導のためではなくみせしめとして行う行為など)単なる私的目的に基づくもの

◯受け手の属性
平均的な心理的耐性を持つ者に対する心理的負荷の程度を勘案したもの
受け手の状況を勘案したもの(例:新入社員など)

◯行為の継続性(回数)、加害者の数など

◯受け手が身体的、精神的に抑圧された程度

◯人格権侵害の程度

こうしたことを勘案して、何が「業務の適正な範囲」なのか、総合的に判断していきましょうとしているのですが、まだ、漠然としています。よくある事例について、具体的に解説していきましょう。

例えば、人事権の行使について。合理的な理由があって会社を辞めることを勧めはするけれど、最終判断を本人に任せる退職勧奨は、適正な範囲内になります。しかし、退職強要はアウト。人事異動は適正な範囲内ですが、不当な配置転換は範囲外となります。

次に、マネジメントについて、適正な課題や目標設定をするのは、当然、適正な範囲です。過大な要求や過小な要求は範囲外。

失敗に対する注意も、事柄や行動に焦点が当たっていれば指導です。例えば、遅刻した部下に「遅刻するな!」は範囲内。しかし、「遅刻をするお前は人間のクズだ」と人格否定したり、「会社にいられなくするぞ」と脅したり、ましてや殴ったりしたら範囲外です。

コミュニケーションも、仮にその質が悪くても、一応、発信と応答をしていれば範囲内。しかし、無視したら範囲外になります。

介入範囲は、業務との関連性があれば範囲内。業務との関連性のない私的なことであれば範囲外。

こうした形で分けることはできます。難しいのは、最初は業務の適正な範囲内であったものが、次第に範囲外に移行していくことが少なくないことです。退職勧奨だったのが、感情的になり、退職強要になってしまうといったことは珍しくありません。

コミュニケーションについても、最初はちゃんと応答していたのだけれど、何を言っても響かない部下に「こいつはダメだ」と思い、無視するようになってしまったり。「遅刻はダメだぞ」と注意していたけれど、いつまでたっても時間にルーズで、「お前は、何度言ってもわからないな!社会人失格、人間のクズだ!」と言ってしまったり。

部下に対するネガティブな感情が積み重なることによって、範囲外に移行していく可能性は十分にあるのです。感情の力によって、パワハラのラインを跨いでしまうのです。

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パワハラがなぜ生まれるのか。その理由を企業の体質や構造から解明し、改善方法が解説されています。管理職となったあなたが抱えている問題を解決するヒントがまとめられています

 

 

和田 隆(わだ・たかし)

ハラスメント防止コンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、シニア産業カウンセラー。メンタルプラス株式会社代表取締役、ウェルリンク株式会社シニアコンサルタント。大学卒業後、旅行会社、スポーツクラブ運営会社で主に商品企画業務に従事。その後、職場のストレスが社会問題化する流れの中、心の健康を大切にする支援をライフワークとするため、メンタルヘルスケアに取り組む。現在、カウンセラー、コンサルタントをする傍ら、ハラスメント、メンタルヘルス、睡眠改善、コミュニケーション等をテーマに、民間企業、官公庁、教育機関等で、講演・指導を行っている。受講者は10万人を超える。

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『パワハラをなくす教科書』

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※この記事は『パワハラをなくす教科書』(和田 隆/方丈社)からの抜粋です。

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