女子レスリングで五輪4連覇を果たし、国民栄誉賞まで受賞した伊調馨選手への協会幹部によるパワハラ(パワー・ハラスメント)は、大きな話題を呼びました。前人未到の偉業を達成した選手までが悩んでしまうパワハラ。業界やケースが違っても、行為者(パワハラをした側)は必ず、あれは指導だったと主張します。
これって私たちの身近にもよくあることでは? 新入社員が配属される今の時期、指導のつもりがパワハラになっていないか、自問してみる必要があるかもしれません。
職場でのパワハラが増加中! 会社も無視できない状況に
2018年3月、厚生労働省が発表した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書によれば、2016年度はいじめ・嫌がらせに関する相談件数が7万件を超え、全相談件数の22.8%を占めたそうです。特に職場のいじめ・嫌がらせに関する相談は増加傾向にあり、2012年度以降、すべての相談のなかでトップとなっています。
職場のいじめ・嫌がらせがすべてパワハラに該当するわけではありませんが、調査のなかで行為者の1位が「上司」、いじめ・嫌がらせ行為の1位が「精神的な攻撃」となっていることからも、その相当数がパワハラであることは間違いないようです。
パワハラは、被行為者(パワハラを受けた人)がメンタルヘルス上の問題を抱えてしまったり、最悪の場合は自殺にいたるなど、人間の尊厳を傷つける重大な問題です。また、被行為者から訴訟をされるような事態になれば、行為者のみならず会社も慰謝料を請求されることがほとんど。会社にとっても、無視できる問題ではありません。
それって指導!? 本人にはパワハラの自覚なし
職場でのパワハラの定義は「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされています。そしてパワハラを深刻化させている原因の一つが、行為者のほとんどが叱責等の行為は認めるものの、それがパワハラであることを否定していることです。
つまり行為者は、自分の行為が職務上の地位や職場内での優位性を利用した【いじめ】ではなく、あくまで業務上の【指導】であると思っているのです。私たちは気がつかないうちに、こんなことをしていないでしょうか。
1.身体的な攻撃
叩く、殴る、蹴る、後ろから押す、定規で叩く、ものを投げつける
2.精神的な攻撃
他の社員の前で執拗に叱責する、長時間別室で繰り返し叱責する、机を叩く
3.隔離・無視
1人だけ別室に移す、机を離す、無視をする、通常は全員が出席する宴会などに呼ばない
4.理不尽な要求
同僚に比べて明らかに多い仕事を押しつける、本来の業務以外の単純作業などを繰り返し命令する
5.プライバシーの侵害
携帯をむりやり覗く、執拗に休日の過ごし方を訊く、家族の悪口を言う
1、2、3は明らかにパワハラとわかりますが、4と5は難しいところです。期待をしていれば仕事を多めに与えることもあるでしょうし、普段の会話のなかで思わず「土日は何を?」と訊いてしまうこともあるかもしれません。普段のコミニュケーションももちろん大事ですが、特に連休明けなどは新入社員達がナーバスになりがちな時期。身に覚えがないか、少しだけ考えてみませんか?
文/長田 小猛