そんな中、寅子は新潟への異動を命じられる。そこで初めて家庭に溝ができていることに気づく寅子。直明(三山凌輝)は、寅子の変化にみんながささいな違和感を覚えつつ、頑張ってくれているから応援しなきゃと思ううち、「気づいたときにはとんでもない、おかしなことになっちゃってた」と明かす。そして、優未(竹澤咲子)が寅子に見せている顔は本当の顔ではない、新潟には寅子一人で行くべきだと言う。
子どもが親の前でスンッとしてしまうのは、よくあること。特に、自分の物差しで見て、自分ができることは他者もできる、まして自分の血を引いている子ならなおさら――と思ってしまうのは、努力が報われてきた自己肯定感の高い人が陥りがちな落とし穴だ。他者がわからないこと・できないことの理由がわからないから、サボっている・努力が足りないと思い、悪気なく相手に自分と同等のレベルを要求してしまう。
とはいえ、優未や甥たちにできて、寅子のような優等生が逆にできないこと・苦手なこともきっとあるはずだが、具体的な困りごとにぶつからない限り、それもわからない。
とはいえ、寅子の凄いところは、ある種の鈍感力の持ち主でありながら、自分への苦情を家族みんなに正面からぶつけてもらい、それを受け止めることができる胆力を持っていること。実際、「言ってくれないとわからない」と言われ、それを真に受けて不満や憤りを言葉にしたことで、夫や上司、先生にブチ切れられて「自分が言えって言ったんじゃん......」と納得のいかない思いをしたことのある人も多いだろう。
優未が新潟に行くか否かの選択は、優未自身に決めさせろと従兄弟たちが言う中、花江は「その決断の責任は寅ちゃんが負うべき」とピシャリ。優未の答えは、母と一緒に新潟に行くというものだった。それにしても、個人の意思を尊重する重要性と共に、子どもに困難な選択を強いることの問題も同時に描くとは。