【虎に翼】「怖いくらいの傑作を確信...」史上最速で泣かされた新朝ドラ。「強い女性」を描く歴代朝ドラとの相違点は

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「傑作の予感」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【虎に翼】「怖いくらいの傑作を確信...」史上最速で泣かされた新朝ドラ。「強い女性」を描く歴代朝ドラとの相違点は pixta_96993421_M.jpg

伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の第1週「女賢しくて牛売り損なう?」が放送された。本作は女性法律家のさきがけ・三淵嘉子をモデルとし、吉田恵里香が脚本を手掛ける物語。

「法曹」という難しそうな題材ながら、「女性と社会」を描く名作になりそうな予感はしていたが......まさかの第1話冒頭0分で泣かされた。朝ドラ史上最速泣きである。

川べりに座り、新聞を読み、涙する主人公・猪爪寅子(伊藤)。市井の人々の姿が映し出される中、尾野真千子の語りでゆっくりと読み上げられたのは、寅子が目を落としていた日本国憲法第14条だ。

「第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

泣きの理由は言うまでもない。この憲法が作られて80年近く経つ今、現実は第14条の掲げる平等にはるか遠く、なんなら現在進行形で遠ざかりつつあるからだ。

時は遡り、1931年。寅子は女学校で二番の成績を誇りつつも、見合いで連敗中。なぜ自分が結婚しなければいけないか納得がいかないが、母・はる(石田ゆり子)は「学んだ知識はよい家庭を築くためにお使いなさい」と言う。

「はぁ?(怒)」と視聴者が口にするより早く、寅子は返す。「はて?」

3回目のお見合い相手(藤森慎吾)は、社会情勢について語り、それに寅子も応じると最初は肯定的だったが、寅子が新聞で得た知識を語り続けたことで「分をわきまえなさい。女のくせに生意気な!」と激昂する。当然見合いは破談。「対等に尊敬し合える関係」は夢のまた夢だ。

ある日、猪爪家に下宿する優三(仲野太賀)の弁当を届けに、寅子は明律大学へ向かう。講義をする桂場等一郎(松山ケンイチ)と学生のやり取りの中で、寅子は「婚姻にある女性は無能力者」という聞き捨てならない言葉を耳にし、思わず「は?」と声をあげてしまう。優三は慌てて寅子を帰そうとするが、教授・穂高重親(小林薫)が現れ、言いたいことがあれば言うように笑顔で語りかける。

寅子が疑問を抱いた「無能力者」の意味について、桂場は「結婚した女性は準禁治産者と同じように責任能力が制限される」と説明するが、納得がいかない。猪爪家では家のことは何でもはるが責任を持ってやっているからだ。

しかし、そんなはるは公の場に出ると「スンッ」と控え目になり、何もやっていない夫・直言(岡部たかし)が全部やったような顔をする。猪爪家が特殊なのではなく、なんなら令和でもまだこういう家庭が多く見られる気がして腹が立ってくる。

桂場の「法律」的説明を受けても寅子は納得できないが、感想を聞かれた寅子は、これまで自分が嫌だと思っていたことすべてにつながる理由があったとわかったと言い、「理由がわかれば何かできることがあるかもしれない」と語る。

そんな寅子に、穂高は自分が教授を務める明律大学女子部法科に入るよう勧める。直言は進学に賛成し、はるに内緒で願書の準備を進めるが...

一方、本作でもう一人の主人公的に描かれているのが、お嫁さんになるのが夢だったと言う親友・花江(森田望智)だ。結婚相手は寅子の兄・直道(上川周作)で、結婚式を最良の日にするため、はるの機嫌を損ねないよう、式が終わるまで寅子の女子部出願の話を黙っていてほしいと言う。

花江の言う「したたか」を寅子も実践し、笑顔で日々おとなしく過ごし、花江の結婚を祝福しつつ、披露宴では「なんだ、したたかって? なんで女だけ面倒なんだ」と心中で怒りながら笑顔で熱唱する伊藤沙莉が最高だ。

しかし、偶然、穂高に出くわしたことで、出願がはるにバレてしまい、大反対される。はるは自分が女学校に行きたくても行けず、本を読んで学んだこと、旅館を第一に考える母から離れたくて結婚したことを寅子に話し、現実の厳しさを伝えて見合いを勧める。寅子ははるの愛情に感謝しつつも、いつもスンッとする母の生き方を思わず否定し、「お母さんが言う幸せも地獄にしか思えない」と、はるを傷つけてしまう。

翌日、見合いのための振袖を買おうと強引に進めるはるとの待ち合わせ場所で、寅子は桂場に偶然会い、母の説得方法を尋ねる。しかし、桂場も女子部進学は反対だと言い、「傷ついて泣いて逃げ出すのがオチ」と一蹴する。

そこで怒りの声をあげたのは、二人のやりとりを耳にしたはるだった。
「何を偉そうに」「そうやって女の可能性の目を潰してきたのは、どこの誰? 男たちでしょ!?」

はるは寅子を連れて書店に入り、六法全書を購入する。自分の人生に後悔はないが、自分の娘にはスンッとしてほしくないと思ってしまったと言うはるは、もう一度寅子に見合いをした方が幸せになれる、それでも地獄を見る覚悟はあるのかと尋ね、「ある」と言う寅子に「そう」と微笑み返す。

『カーネーション』や『あさが来た』など、これまで自立したを描く朝ドラでは、父親が壁となり、立ちはだかるケースが多かった。しかし、本作では女性の先人が壁になるのかと思いきや、描かれたのは母と娘の連帯、シスターフッドだった。

こんなのもう、泣かないわけないでしょう。怖いくらいの傑作を確信する第1週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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