【虎に翼】亡き夫・優三(仲野太賀)の存在感...寅子(伊藤沙莉)と娘の「溝」を埋める鍵は大人の「ダメな部分」?

【前回】権力化する寅子(伊藤沙莉)の足元が揺らぐ...名声を得たヒロインにもたらされた「副作用」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「『異物』の登場」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【虎に翼】亡き夫・優三(仲野太賀)の存在感...寅子(伊藤沙莉)と娘の「溝」を埋める鍵は大人の「ダメな部分」? pixta_88945188_M.jpg

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の第16週「女やもめに花が咲く?」では、新潟編がスタート。今週はいろんな「異物」が登場した。

一つは、新潟で再会した判事・航一(岡田将生)の強いビジュアルと、朝ドラとは思えないローテンションと会話の「間」。新潟の名所を教えくれと寅子(伊藤沙莉)に言われると、家と裁判所の往復ばかりだから知らないと言い、お休みの日は何をと問われると「休みの日は、休んでいますね」のみの塩対応。

この手の全ての会話が1ターンで終了する人は実際にいるが、こんなに何も生まれない雑談をたっぷりの間で朝ドラで聞ける日がくるなんて。

もう一つの大きな「異物」は田舎、あるいは田舎にとっての寅子自身だ。

寅子は娘・優未(竹澤咲子)を連れて新潟地裁三条支部に「支部長」として赴任する。支部の職員や地元の弁護士・杉田太郎(高橋克実)・次郎(田口浩正)兄弟らからは拍手で歓迎されるが、「持ちつ持たれつ」と言い、グイグイ詰めてくる田舎の距離感に馴染めない。

娘との2人暮らしは大変だろうと、杉田兄弟の便宜により、ツケで勝手に魚屋や八百屋からおかずが届けられる。頼んでもいない余計なお世話をありがたいと思う人もいるだろう。しかし、そうした親切は、便宜や見返りを求められることとセットだ。

実際、多くのドラマでは「田舎=温かい」「都会=冷たい」という構図で描かれがちだが、田舎には温かさの一方で、閉塞感や押し付けがましさ、面倒臭さもある。それにしても、こうした地方出身者にはよくわかる田舎あるあるを、神奈川出身の脚本家・吉田恵里香氏がなぜ知っているのかと思うくらいだ。

寅子は三条支部で山の境界線をめぐる民事調停を担当することになり、申立人の森口、弁護士の杉田、書記官・高瀬(望月歩)らと現地調停に出向く。

しかし、高瀬と森口の間でトラブルが発生。止めようとした寅子が巻き込まれ、川に落ちる事態に。かつてハイキングで花岡(岩田剛典)を突き飛ばし、転落させてしまった寅子が、「手をあげるのはダメ」と割って入って自身が川に落ちるのは、因果応報、ああ無情。

それでも高瀬は、森口に訴えられそうになってもなお、言い争いの内容を明かそうとしない。それどころか、介入してくる寅子に、波風を立てず、立つ鳥跡を濁さずでいてくれと言う。

一方、寅子と優未との距離は縮まらない。花江(森田望智)への手紙で、仕事も家事も完璧にこなすと書いた寅子に、花江からはすぐさまダメ出しの返事が来て、「寅ちゃんにしかできないことを」と言われる。

しかし、優未は忙しい寅子に代わってご飯と汁を用意しておくなど、スンとしたまま。そのスンを解く鍵は、どうやら大人の「ダメな部分」にあるのかもしれない。

寅子は優未が登校した後、畳に寝転がり、仕事に行きたくない!と1人駄々をこねる。たまたま忘れ物をとりに来た優未にそれを見られてしまう。

しかし、おそらく聡明で強い母の意外な一面は優未を少しだけ安心させたのだろう。ある日寅子が帰宅すると、優未がテストの点数をごまかそうとしている場面に出くわす。そこで優未が語ったのは、テストのときに緊張してしまい、お腹が痛くなるのだという事実。なんと亡き夫・優三(仲野太賀)から受け継いでしまっていたのだ。

これまで優秀な両親から生まれ、母もおじも家の中でずっと勉強している姿を自然に見て育った優未が、なぜ勉強が苦手なのか気になっていた視聴者は多いだろう。その理由がまさか父譲りの緊張しいの腹痛だったとは。

父との共通点を聞き、父のダメなところを聞きたいと嬉しそうに言う優未だが、寅子は話せない。その理由について、寅子は航一(岡田将生)の言葉「死を知るのと受け入れるのとは違う。事実に蓋をしなくては生きていけない人も」から、自分が優三の死を今も受けきれていないことに気づく。

次郎は「みんな戦争で誰かしら大事な人を亡くしてるわけですからね。いい大人ですし、そこは乗り越えていかないと」と言うが、「そういわれるから乗り越えたふりをするしかなかった」と航一は指摘する。

これはどちらの言い分もわかる。言葉の選び方はともかくとして、誰かの傷に触れたとき、どんな言葉をかけたら良いかわからず、「みんな傷ついている」「みんな大変」と一般化して個人の傷を透明化しまうことはあるかもしれない。

しかし、大切な存在を失った痛みは簡単に受け止め切れるものじゃない。

一方、どうしても人と関わることを諦められない寅子は、帰り道に合った高瀬に声をかけ、謝罪し、この先もきっと波風を立ててしまう、上司として人としてできることをしたいと思ってしまうと思うと高瀬に伝える。

すると、高瀬は、毎日の息苦しさが、勉強すれば、大学に行けば、書記官になれば変わると思ったが、どこに行っても同じだったと、初めて本音を漏らす。

寅子は仕事の手を抜かない高瀬を労い、頼りにしていると伝える。そして、境界問題は杉田兄弟の根回しにより、一見円満解決に。その一方、森口との揉め事を穏便に済ませようという杉田からの提案を断り、寅子は高瀬をきちんと処分すると告げるのだ。

「持ちつ持たれつ」に乗るのは、長い目で見たらハイリスクだ。高瀬自身がさらに雁字搦めになり、逃れられなくなっていくことが容易に想像されるためだ。

ともあれ、寅子は高瀬と向き合えたことで、優未とも向き合うことができる。高瀬がくれたキャラメルを優未に明日のおやつにと言って手渡すと、優未は「今食べちゃダメ?」と聞き、「だっておいしいもの、一人で食べてもつまんない」と言うのだ。おいしいモノを分け合って食べるのは、まさしく優三と寅子の思い出でもあった。

スンとしていた優未がワガママを言えたこと、父とやっぱり似ていること、こうして溝が少しずつ埋まる。

そして、航一と向かった先、ラストに登場したのは、よねが働いていたカフェー「燈台」と同義の 「Light House」という店。その奥には涼子(桜井ユキ)の姿が。いよいよ魔女5最後のピースとの再会、玉(羽瀬川なぎ)の現況も気になる展開だ。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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