実は出席率は2割強?「裁判員制度」開始10年で見える問題点とは

私たちが判決を下すこともある「裁判員制度」の開始から2019年5月で10年となります。順調に運用が進んでいる...と思いきや、さまざまな問題点も出てきているようです。制度の現状と課題を埼玉弁護士会・裁判員制度問題検討特別委員会に聞きました。

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市民に浸透しているとは言い難い裁判員制度

2009年5月から始まった裁判員制度。一般の市民が殺人や強盗致死傷といった重大な事件の刑事裁判に参加し、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどのような判決を下すのが適切かを裁判官と一緒に考える制度です。

開始当初は「出席率8割超」「市民感覚が判決に反映」といった報道をよく見かけましたが、最近は少なくなりました。順調に制度が運用されている証拠かと思いきや、そうとは言えないようです。

新穂弁護士は問題点の一つとして、当初報道されていた「出席率」の高さというものは年々減少傾向にあるばかりか、そもそも実情を正確に示す数値ではない、という点を挙げています。

09年は出席率が8割強と報じられていましたが、調査票や質問票を返送した際に辞退が認められた人も計算に入れた、言わば「実際の出席率(候補者数に対する出席者数)」は4割程度でしかありません。さらに18年になると、「実際の出席率」は2割強まで落ち込んでいます。

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「制度が市民に浸透していると言えるでしょうか? 裁判員裁判に参加したい、という人がまだ一定数存在し運用できているため、問題が表面化していないだけ」と、新穂弁護士。また、選任手続期日当日に無断で欠席する人もいますが、本来は正当な理由なく欠席すると10万円以下の過料(罰金)に処せられる場合も。しかし、現状適用された人は見当たらないそうです。

「裁判所は、過料に処すことで制度に批判的な世論が生まれるのを嫌がっているのでは」と、新穂弁護士は推測しています。

問題はそれだけではありません。裁判員は刑事裁判については専門的な知識を持たないため、分かりやすい裁判が求められているのですが、そのことが別の問題を生んでいるのです。

「証拠を分かりやすくするため、そのエッセンスを抽出、引用して報告書として提出する際に、やり方がよいとは言えず事実誤認を引き起こす場合がありました。また、現場写真や激しく傷つけられた被害者の写真をイラストにする場合もあり、生の証拠を裁判員に見せないことで、冤罪につながる可能性もないとは言えません」(菊地弁護士)

「刑事裁判というのは本来分かりにくいもの。分かりにくい事実を、証拠を基に地道に認定していくもので、プレゼン大会のように分かりやすい説明をした方が勝ち、というものではありません」(小出弁護士)

証拠にイラストなどが用いられるようになった背景には、非惨な事件現場の証拠を見た裁判員がその後、ASD(急性ストレス障害)と診断されたという事例があったことが挙げられるのですが、立石弁護士は「そもそも、そのような負担を市民に強いるのは許されるのでしょうか」と、裁判員制度そのものに対しても疑問を投げかけています。

ただ、事件の真実が伝わらないという意味では検察側もこの「分かりやすさ」を問題視しているようで、2月に行われた検察幹部が出席する会議で、全国の検察官のトップである稲田伸夫検事総長が、必要な場合は証拠が採用されるように努力してほしいという、異例の苦言を呈したことも報道されています。

 

次の記事「最近はストーリー性重視に?裁判員に選ばれた場合の注意点とは」はこちら。

取材・文/仁井慎治

 

 

<教えてくれた人>

埼玉弁護士会 裁判員制度問題検討特別委員会
新穂正俊弁護士・菊地陽一弁護士・立石雅彦弁護士・小出重義弁護士

2009年5月の裁判員制度開始直後から、問題点の検討や提言を行うために埼玉弁護士会所属の弁護士で組織された委員会。市民もオブザーバーで参加。制度の問題点検討を専門とする委員会は、現在では全国の弁護士会でもほとんどない。

この記事は『毎日が発見』2019年5月号に掲載の情報です。

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