過剰な「減塩」はむしろ危険! 降圧剤も人によっては不調が? 「高血圧=悪」の健康常識を見直す

過剰な減塩は意識障害を招く恐れがある

逆に、血圧を気にして塩分を減らしすぎると、塩分に含まれるミネラルであるナトリウムが足りなくなる恐れがあります。

ナトリウムは、細胞の外側にある体液(血漿(けっしょう)やリンパ液など)の量を保ったり、筋肉の収縮を調整したりと、体に欠かせない役割を果たす物質です。

若いころは、少々塩分が足りなくとも、腎臓でナトリウムをキープしておく力(ナトリウム貯留能)が十分に働きます。しかし、加齢とともにその力は衰え、塩分不足でもナトリウムが排出されやすくなります。

その結果、「低ナトリウム血症」を起こす危険があります。低ナトリウム血症は軽度でも意識障害を引き起こし、重度になると死に至ります。

ちなみに私も高血圧ですが、塩分は控えていません。利尿剤を服用しているせいか低ナトリウム血症の傾向があり、これ以上ナトリウムを減らすのは危険だからです。

「正常値」にすると倦怠感が出ることも

私は、放っておくと収縮期血圧が200mmHgを超えます。140mmHg以上で高血圧と診断されることを考えると、常識的には「きわめて危険」とされる数値です。

自覚症状としては、すぐに息苦しくなるのを感じます。これは、心筋肥大が悪化して、不全になったことで起こる症状です。高血圧が続くと、心臓に負担がかかって心臓の筋肉が分厚くなり、ポンプ機能が落ちるのです。

これは問題だと思い、高血圧の治療薬を試すことにしました。

しかし、正常値の140mmHgまで下げると、今度は体がだるく、頭もふらつき、思考力や集中力が落ちてしまうことがわかりました。

そこで薬の量を調整し、170mmHg程度なら思考力や活力も落ちないことがわかりました。

「170mmHgは異常値だ」と、常識的な医者なら怒るでしょう。しかし私は、個人差を無視した一律の数値よりも、自分自身の体の声を大事にしたいのです。

ちなみに、一般には非公開の医療専用のサイト「m3.com」上では、この私の考え方が大いに非難されました。日本の医者の「妄信」はここまで強いのかと、暗澹(あんたん)とした次第です。

さて、みなさんはこの話をどう感じられたでしょうか?

私は決して、「私と同じようにせよ」と言っているわけではありません。世の中の大半の医者のように「私の言うことを聞け」と言う気は毛頭ありません。私と同じ立場になったとき、数字を取るか、体の声を取るか。そこは、みなさんの価値観次第です。

<POINT>
「高血圧=悪」と決め付けると、逆に危険なことも。降圧剤も人によっては不調が出る。

 

和田秀樹
精神科医。1960年、大阪府生まれ。1985年に東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、国立水戸病院、浴風会病院精神科、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在、立命館大学生命科学部特任教授。映画監督としても活躍している。1987年のベストセラー『受験は要領』以降、精神医学・心理学・受験関連の著書多。近著に『老いの品格』『頭がいい人、悪い人の健康法』(ともにPHP新書)、『50歳からの「脳のトリセツ」』(PHPビジネス新書)、『60歳からはやりたい放題』『60歳からはやりたい放題[実践編]』(ともに扶桑社新書)などがある。

※本記事は和田秀樹著の書籍『60歳からは、「これ」しかやらない 老後不安がたちまち消える「我慢しない生き方」』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。
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