年齢を重ねると、やる気がでなかったり身体面では動脈硬化を起こしたりと、心身ともに不調が起こることが多くなります。実は、そこには脳の老化が大きく関与しています。今回は、ルネクリニック東京院 院長の和田秀樹(わだ・ひでき)先生に「70代・80代の思考」についてお聞きしました。
【前回】『80歳の壁』和田秀樹さんが指南!脳年齢を若く保つ「60代の過ごし方」
70代は脳トレよりも「おしゃべり」を
「周りに心配をかけてはいけない」など遠慮がちになる人も多い年代ですが、その必要は無用です。
むしろ、これまで以上に自由に生きることを心がけたいもの。
知的好奇心を磨くことで、いくつになってもイキイキと輝けます。
聞こえにくくなったら補聴器を使う
耳が聞こえにくくなると、認知機能の低下につながると和田先生。
「聞こえが悪くなると、人との関わりが減っていきます。また、聞き取りに努力が必要となり、脳の能力が聴覚処理に費やされ、他の認知機能が落ちてしまいます。聞こえにくいと思ったら、迷わず補聴器を使ってください」
思い当たる人は、まずはお近くの耳鼻科で相談を。
寝たきりを防ぐため肉をたくさん食べる
「精神の安定に欠かせないセロトニンの原材料はトリプトファンというアミノ酸で、主に肉類に含まれています。また、コレステロールを減らそうと肉や卵を控えると、筋肉の材料となるたんぱく質が不足しがちに。その結果、筋肉量が少なくなり、体力が衰えるリスクが高まります」
年齢を重ねるほど「肉を食べる」を意識しましょう。
いつもの家事やおしゃべりが認知症の予防になる
認知機能の低下予防には、日常生活の中で行ってきたことを、レベルを落とさずに続けるのがいいと、和田先生。
仕事をしている人はその仕事を、料理が好きならばその能力を保つようにしましょう。
また、おしゃべりは認知症予防に効果抜群。
「他人とのおしゃべりは、強制的に頭を働かせないといけない局面が多く、最良の頭のトレーニングです」
年を取ったから記憶力が落ちるは誤り
「脳の機能から考えると、75歳頃までは記憶力はさほど衰えません。急激に衰えるのは、覚えようとする意欲。脳はいくつになっても鍛えられます」
記憶力をアップしたいなら、試しに何かの丸暗記をしてみましょう。
百人一首や国名など何でもいいと和田先生。
また、「記憶力が落ちた」という自己暗示はNG。
本当に記憶力が落ちてしまいます。
80代からは「いまできること」を続ける
80代からは「自分はこれでいいのだ」と思える心の在り方が重要になります。
「できること」と「できないこと」を整理して気持ちの切り換えを行うことで、この先も楽しく過ごせます。
「できること」は続ける。簡単にやめない
和田先生によると、80代からの人生を楽しく過ごすためのコツの一つは、「できること」と「できないこと」を整理し、「もうできない」ことは「できなくて当たり前」という意識をもつことだそうです。
その上で、「まだできる」ことは簡単にやめたり、諦めたりしない姿勢も大切です。
「楽しくできること」を優先して続けるようにしましょう。
睡眠は自分がすっきりする時間とれればいい
「睡眠は、何時間寝たかよりも、起きたときに疲れが残っていないことの方が重要です」
質の良い睡眠のためには、「朝、起きる時間を一定にする」ことが第一。
起床時間にばらつきがあると、セロトニンなど脳内の神経伝達物質が減少し、誘眠物質のメラトニンも不足。
睡眠障害を起こしやすくなります。
毎朝同じ時刻に朝食を取ることも有効です。
書く習慣で脳を活性化する
脳を若々しく保つには、「書く習慣をつける」ことが効果的。
特に、ブログや投稿など、読み手を想定した文章を書くことがポイントだといいます。
他人に向かって発信するとなると、内容をしっかりと伝えるため、形式や表現方法にも気を使うようになり、前頭葉が鍛えられます。
さらに、書くためにテーマを探すことも脳の良い刺激になります。
杖や大人用おむつ便利なものは利用する
加齢による筋力や認知機能の低下は、誰にでもやってきます。
そんなときこそ使えるものを活用すべきと和田先生。
「足腰が弱くなってきたら杖を、聞こえが悪ければ補聴器を、トイレが近いなら大人用紙おむつを。外出の機会が減ると、老化が加速します。便利なものを上手に利用して、外出の機会を減らさないことで、若々しさを保てます」
参考:『年代別 医学的に正しい生き方 人生の未来予測図』(講談社現代新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)/著:和田秀樹
取材・文/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/macco