60歳以降は「糖質制限」が不要!?「高血糖」より「低血糖」のほうがすぐ死に至るリスクが高い理由

高血糖と低血糖、どちらが認知症になりやすいか

「高血糖のほうが認知症になりやすい」と聞いたことがある方もいるでしょう。

たしかに、糖尿病情報センターのホームページには、

「糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいと報告されています」

とあります。

ところが、続けて、次のように書かれています。

「糖尿病治療の副作用で重症な低血糖が起きると、認知症を引き起こすリスクが高くなると言われています」

高血糖でも低血糖でも認知症になるリスクが高い、と言われたようなもので、煙(けむ)に巻かれた気にさせられます。

ここでデータを紹介しましょう。

浴風会病院の板垣晃之医師が、生前、糖尿病だった人と、糖尿病でなかった人の脳を解剖して比較したところ、前者のアルツハイマー症の発症率が8.8%だったのに対し、後者の発症率は27.9%でした。実に、3倍以上の差が出たのです。

ところが、福岡県久山町の調査では、まったく逆で、糖尿病の人のほうがアルツハイマー型認知症に2.2倍なりやすいとの結果が出ています。

また煙に巻かれそうですが、この謎には、解く手がかりがあります。

浴風会病院では、よほどの高血糖でない限り、糖尿病の治療を行いませんでした。対して久山町では、糖尿病と診断された方々に原則的に治療を行っていました。ということは、認知症が「糖尿病の結果」ではなく、「糖尿病の治療の結果」である可能性もあります。医者の間でも見解が分かれるところですが、高血糖だけをむやみに危険視する傾向は、今後変わっていくかもしれません。

いずれにせよ、血糖値を気にして糖質制限をするのは、60歳以降はおすすめできません。低血糖になると、やる気が低下します。頭がボーッとして、活力が下がるのです。また、交通事故の原因になり得ます。脳以外の組織も、ブドウ糖不足の影響を受けます。たとえば筋肉にもブドウ糖は不可欠。低血糖によって、転倒のリスクが増大します。皮膚も老けた見た目になりやすくなります。

<POINT>
血糖値が高すぎてもすぐには死なないが、低血糖はすぐ死に至る危険がある。

 

和田秀樹
精神科医。1960年、大阪府生まれ。1985年に東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、国立水戸病院、浴風会病院精神科、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在、立命館大学生命科学部特任教授。映画監督としても活躍している。1987年のベストセラー『受験は要領』以降、精神医学・心理学・受験関連の著書多。近著に『老いの品格』『頭がいい人、悪い人の健康法』(ともにPHP新書)、『50歳からの「脳のトリセツ」』(PHPビジネス新書)、『60歳からはやりたい放題』『60歳からはやりたい放題[実践編]』(ともに扶桑社新書)などがある。

※本記事は和田秀樹著の書籍『60歳からは、「これ」しかやらない 老後不安がたちまち消える「我慢しない生き方」』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。
PAGE TOP