DVやハラスメント、性犯罪に娘のいじめ...「女性が巻き込まれやすいトラブル」は数多くあります。でも、そうした悩みを解決したくても、「誰かに相談したら逆に悪化するかも...」とどうしていいかわからない人も多いと言います。そこで、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんの著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より、女性の味方になってくれる「法律」についてご紹介。ぜひ、ご自身やお子さんがトラブルの参考にしてください。
もし痴漢にあったら......満員電車の場合
満員電車では、誰がさわっているのかわかりにくいこともあります。
また「この人痴漢です」と言っても、「違う」と言われた場合、目撃者もいなければ結局逃げられてしまいます。
できればさわってくる手を引っかくなどして、犯人の手に証拠を残すようにしましょう。
被害者の爪に加害者の皮膚片があれば、DNA鑑定ができる可能性があります。
自分のかゆい部分をかいても、爪の間に皮膚片は入るので、強くひっかく必要はありません。
なお、安全ピンで刺すなどは、凶器とも考えられ、過剰防衛となる可能性があるためおすすめできません。
また衣服には犯人のDNAが残存している可能性があります。
犯人がさわった部位をさわらないことが重要です。
ただし、満員電車の痴漢では、いつどのようにDNAがついたのか判然としないので、証拠の価値は必ずしも高くありません。
携帯電話を操作していた場合
できれば加害者の顔や手を撮影しましょう。
逃げられても、顔が残っていれば後から捜査が可能になります。
また、撮影すれば、発生場所や日時の特定に役立ちます。
深夜の帰宅途中などの場合
すぐに110番をしましょう。
コンビニなどに入り、お店の人に110番を頼んでもかまいません。
犯人を捕まえられた場合、被害者は、警察から被害状況の事情聴取を受け、供述調書を作成します。
また、「どのように被害にあったか」という再現を、被害者に見立てた人形を使って行います。
ただし、加害者が逮捕されるかどうかは場合によります。
示談が成立して不起訴になる場合もあれば、略式起訴で罰金、正式裁判になる場合もあります。
【事例①】
犯人を捕まえようとしてくれた人がいたが、犯人が逃げてしまった......。
【ANSWER】
気づいた人が証言してくれる場合があるので、その人の名前や連絡先を聞いておきましょう。その人が110番通報してくれれば、記録に残るので、警察が協力を求めやすくなります。また、逃走されても防犯カメラに映っている可能性があるので、諦めずに通報しましょう。
【事例②】
「そんな恰好をしているからだ」と言われた。私の恰好が悪いの?
【ANSWER】
どんな恰好をしていたとしても、他者の身体に勝手にさわることは許されません。
【事例③】
痴漢にあった同じ電車に乗ったら犯人がいたが、現行犯でないと逮捕はできない?顔をはっきり覚えており、相手に間違いはない。
【ANSWER】
以前痴漢にあったときにどんな証拠があるか、ということです。そのときの証拠がなければ、逮捕はできません。よく乗り合わせる人が犯人の場合は、鉄道警察に相談しましょう。女性の私服警官が一緒に電車に乗ってくれ、再度痴漢してきたときに現行犯で逮捕できる場合があります。
【ポイント】
アプリなどを使った痴漢対策が進んでいます。
JR東日本(東日本旅客鉄道)は、列車内の痴漢防止対策として、スマートフォンの専用アプリで車掌に通報するシステムを開発し、実装に向けた検証を進めています。
痴漢被害の情報を集めて、鉄道会社、パトロール警備、警察と共有し、対策を促すアプリ(痴漢レーダー)もあります。
警視庁によるアプリ「デジポリス」は、防犯ブザー機能や、犯罪の発生情報、「痴漢です」と書かれた画像を表示させ、周囲の人に無言で助けを求められる機能などが実装されています。
【事例④】
相手が冤罪を主張しているときはどうすればいい?
【ANSWER】
相手が冤罪を主張していても、自信があって「痴漢だ」と指摘したのであれば、相手の言い分は無視して通報するなど、次のステップに進んでいいでしょう。「ちょっと当たっただけだ!」などと言って相手が逃げようとしている場合も、自信があるのであれば、相手が認めようと否認しようと、通報しましょう。
痴漢は冤罪が多い?
痴漢は満員電車の中で行われることがほとんど。
痴漢は冤罪が多いかのようにいわれていますが、冤罪はすべての犯罪で問題になりうることです。
痴漢は母数がとてつもなく多いことが原因と考えられます。
あまりに件数が多いため、届出自体がなされなかったり、届け出ても誰が犯人かわからなくて立件できないというのが現状です。
犯人を間違えてしまった場合
間違えたのがどの段階かによって異なると考えられますが、原則、間違えていた場合に罰せられることはないでしょう。
しかし間違えたことに重過失あるような場合は、損害賠償の対象になる可能性はあります。
つまり重過失で間違えたことによって、実名が報道された、会社を解雇された、離婚になった、というような場合です。
単に間違えただけで実害が生じていなければ、損害賠償責任は負いません。
【事例⑤】
相手が示談にしたいと言ってきたら、どのように対処すればいい?
【ANSWER】
示談には、メリットとデメリットがあります。刑事責任・民事責任のその後の行方に大きな影響を及ぼしますし、実際に損害賠償金を回収できるのか、回収できるとして金額はどうなるか、などを判断する必要がありますので、示談の話が出たら、弁護士に相談するのがベストです。
【解説】
「痴漢罪」という犯罪はありません。
しかし各都道府県の条例で、禁止行為として定められています。
たとえば東京都の条例の場合、「公共の場所、または公共の乗り物において、衣服そのほかの身に着ける物の上から、または直接に人の身体に触れること」と規定されています。
罰則内容も各都道府県で異なりますが、たとえば東京都の場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
痴漢がエスカレートして、「下着の中に手を入れて女性器をさわる」などの場合は、刑法の強制わいせつ罪となります。
【あなたを守る法律】
刑法 第176条 強制わいせつ
13歳以上の者に対し、暴行、または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6カ月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
ほかにも書籍では、恋愛・くらし・しごと・結婚など6つの章だてで、女性に起こりうる様々なトラブルに「どう法的に対処すべきか」が解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてくださいね。
六法やDV防止法、ストーカー規制法...。女性の一生に寄り添う大切な法律が、6章にわたって解説されています。