「これは愛の話。美しい時代劇になると思った」映画『散り椿』木村大作監督インタビュー

「これは愛の話。美しい時代劇になると思った」映画『散り椿』木村大作監督インタビュー 25091805.jpg撮影現場で誰よりも檄(げき)を飛ばし、名作映画を盛り上げてきた名キャメラマン、木村大作さん。60代後半で映画監督に転向した木村さんの3作目の監督作『散り椿』が9月28日(金)に公開されました。原作は葉室麟の同名小説。どんなところに惹かれたのでしょうか。

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すてきな二つの台詞に魅せられて

――これは、真心の人・新兵衛をめぐる心の物語ですね。

木村 そうだね。『散り椿』を読んで、愛の話だと思った。美しい時代劇になるなと。篠と新兵衛の純愛の話だけど、実は志乃の妹・里美と新兵衛のロマンスの話でもあるんだよね。

――篠の遺言は、ちょっと意味深です。自分亡き後、かつて自分と恋仲にあった采女(うねめ・西島秀俊)のもとを訪れて、彼を助けてあげてほしいと。この遺言の解釈が、新兵衛と采女では異なります。原作では篠の真意が書かれていますが、映画ではそこは描いていませんね。

木村 愛の謎を描いたサスペンスみたいになっているよね。篠の遺言に新兵衛が「その願いを聞いたら、俺を褒めてくれるか」と言う。すると篠が「お褒めいたします」と言うんだよ。今、そんなすてきなこと言う女性いないよね(笑)。そして、遺言を聞き受けた新兵衛を里美が「お優し過ぎます」と言う。この二つの美しいせりふに惹かれて映画にしたんだよ。

――篠の遺言は一見、残酷ですが、実は新兵衛への深い思いが込められています。新兵衛は気付きませんが、采女は気付いている。そこも泣かせます。

木村 西島秀俊は采女にぴったりだよね。あの立ち居振る舞い。母親に猛反対されて篠との結婚を諦めるけれど、その後、誰もめとらずに篠への想いを貫いている。女性は采女みたいな男が好きだろうね(笑)。

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頭の中に、これから撮りたいロケ地が全部入っている

――もともと葉室麟さんの小説がお好きだったそうですね。

木村 そう。50代で小説を書き始めたのに多作だよね。新聞記者時代に題材をためていたんだろうね。生前、映画の試写にも来てくださって、「少し前に書いた本なので今日、映画を見て初めて『散り椿』ってこういう物語だったんだと思いました」って。

――原作を映画にされる時、映画の構造はすぐに浮かんでくるのですか?

木村 そうだね。俺は映像が浮かんでこない小説は、映画にしないよ。小泉堯史さんに脚本を書いてもらったんだけど、その前にロケハン(ロケ地を探すこと)は全部終わっていて、この場所であのシーンを撮るって撮影前に全部決めてある。そのうえで、予算はこれだけ掛かりますという話をする。俺にしかできない映画作りだな(笑)。

――高倉健さん主演の『八甲田山』(1977)など、大自然の中で厳しい撮影をされてきた経験値があるから、予算まで把握できるということですか?

木村 そうなんだろうね。今回は富山県でオールロケで時代劇を撮ったんだけど、日本映画史上あまり例をみないことじゃないかな。皆、時代劇といえば、京都の撮影所に行くから。たしかに京都は雅(みやび)なんだよ。でも、これは地方大名の話だから。

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――富山県で撮られたのは?

木村 (初監督作の)『岳 点の記』(2009)を富山で撮った時に、ロケハンでいろいろな土地を見に行って、その時に見つけた場所がいっぱいあるわけ。この場所いいなぁ、時代劇にぴったりだなというロケ地が全部頭の中に入っている。だから、あっという間にロケ地が決まっちゃうんだよ。

――頭の中がデータベースみたいですね。

木村 そう(笑)。俺は自分が監督する時は、スクリプター(「記録」と呼ばれる仕事/シーンとシーンのつながりなどをチェックする役割)つけないの。自分の頭の中に全部入っているから。だから、編集も早いよ。撮りながら頭の中で編集しているから、無駄なカットは撮らないわけ。この映画は捨てたカットが、3カットしかないんだ。自分でもびっくりしたよ(笑)。効率がいいし、お金の無駄が一切ない。キャメラマンの時からやってきたから、慣れたものですよ。そういう監督は、他にいないだろうね。

 

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取材・文/多賀谷浩子

 

 

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木村大作(きむら・だいさく)

『隠し砦の三悪人』(58年)で黒澤明作品に撮影助手として参加して以降、長年にわたり活躍する名キャメラマン。『岳 点の記』(09年)で初監督。『八甲田山』(77年)に代表される大自然でのロケ撮影も得意とし、『散り椿』も時代劇としては前代未聞の全編オールロケで撮影された。


『散り椿』

2018年9月28日(金)全国東宝系にてロードショー
監督・撮影:木村大作 脚本:小泉堯史 

出演:岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子他

原作:葉室麟『散り椿』(角川文庫刊)

日本 2018年 112分
©2018「散り椿」製作委員会 

 

映画『散り椿』あらすじ
藩の不正を訴え出たため、藩を離れた男・新兵衛(岡田准一)。亡き妻・篠(麻生久美子)との約束を果たすべく、藩に戻り、友でライバルの采女(西島秀俊)と再会する。同時にかつての不正事件を暴こうとするがー。

 

公式サイト:映画『散り椿』

 

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