テレビに出てバッシングされ、精神的に参ったらお粥を食べて寝てました/田嶋陽子さんインタビュー

いまの女性は皆がファム・ファタール

――本の中では、男性と対等に渡り合う強いヒロインを"ファム・ファタール"という言葉で表現されています。

映画や舞台などの作品では、男性が簡単に扱えない、男性と対等に拮抗(きっこう)する女性が登場すると、最後は非業の死を遂げるものが多い。

なぜかと考えてみると、主人公の男性からしたら、自分を成長させてくれる女性は大事な存在ですが、自分が成長すると、そうした女性は必要なくなります。

だから物語の中では殺されてしまうけど、いまの時代は女性たち皆がファム・ファタールでしょう?

自分の意志を持って我が道を生きる。

女性が自分の人生を生きるようになったら、男性なんて出産の道具でしかなくなっちゃいま
すよ(笑)。

結婚する人が少なくなっているというけれど、そもそも結婚制度は家父長制で男性が子孫を残すための制度、男性にとって便利にできているわけ。

これからは女性が1人で子どもを産むことを法的に認めないと、少子化は変わらない。

社会で活躍しながら問題なく育児ができる体制を整えられたら、それこそが異次元の少子化対策。

女性が男性の70%の報酬で働く限り、この国は沈没しちゃう。

救うのは国民の半分を占める女性たち。

女性がちゃんと税金を納めて、ちゃんとものを言うことが大事。

専業主婦の家事や子育てや介護などの家事労働はタダなわけでしょう。

お金に換算したら、およそ300万円にもなるんだよ。

それでも「養ってやってる」なんて言う夫がいるのなら、蹴飛ばしてやればいいんです(笑)。

つらいときは、どうしてだろうって自分で考えて、みんなの意見とつなげて解決策に結びつけること。それが生きること、つまりフェミニズムなんです。

The personal is political(個人的なことは政治的なこと)。

自分ひとりの悩みに終わらせないようにしないとね。

――「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)などメディアの印象も強いです。

テレビはいつも、褒められるのとバッシングと半々だなと思います。

子どもを連れて、涙ながらに「先生、よく言ってくれました」って言う女性もいれば、私より上の世代の男性たちからの風当たりは強くてね。

都合が悪くなると「ブス!」呼ばわりでよく叩かれましたから、精神的に参ることもありましたよ。

そういうときは軽井沢に引っ込んで、情報全てを遮断して、携帯電話の電源も切って、好きなものを食べたいけど、胃が痛いからお粥を食べて寝てました(笑)。

テレビが難しいのは、2時間話しても、ほとんど使われていなかったりするんです。

編集の怖さですよね。

結婚制度や税のこと、男性社会に都合の良いことで生まれる弊害を伝えても、編集で私が男性論客に論破されて終わったような形で放映されるわけです。

すると、フェミニストの人たちから「ちゃんと主張していない!」とさらに私が批判されるわけです。

参っちゃうよね。

そうしたら、私が一番尊敬するフェミニストの駒尺喜美さんが「1回テレビに出たら、何か1つだけ言えばいい。その代わり100回出ればいい」って。

それまで私は一度にたくさんのことを言おうとしていたのね。

言わせてくれないことが悔しかったわけです。

でも、叩かれたら、もちろん落ち込みますけど、書くこと、自分の言葉で発信していくことで自分を解放することができました。

『愛という名の支配』を書いたことは、最大の自己セラピーだったと思う。

その後から、年とともに人生が楽になってきて、心の中が乱れないんです。

そしていまが一番楽なんです。

もちろん!日々あるわよ、足が痛いとか今日は手が...とか。

でも、心の中は穏やか。

だから、これからは、もっと楽しくなっていくんじゃないかと思います。

文/多賀谷浩子 撮影/下林彩子

 

女性学研究家

田嶋陽子(たじま・ようこ)さん

1941年、岡山県生まれ、静岡県育ち。元法政大学教授。元参議院議員。英文学者、女性学研究家。フェミニズム(女性学)の第一人者としてマスコミでも活躍。『愛という名の支配』(92年)をはじめ、『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか !?』(2023年、作家のアルテイシアとの対談本)など著書多数。近年は歌手、書アート作家としても活動。

51Y+U5rQC+L._SX339_BO1,204,203,200_.jpg『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』

(田嶋陽子/KADOKAWA)

2,420円(税込)

自分の人生を生きようとする魅力的なヒロインは、なぜ映画の最後で非業の死を遂げるのか。1940~80年代の名作をフェミニズムの視点から読み解いた91年の著書に加筆・修正を加えた新版。復刊に当たり、今年のアカデミー賞でも話題をさらった新作映画をはじめ、近年の映画30作品を新たに論じた「Feminist Film Guide」も収録。

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この記事は『毎日が発見』2023年7月号に掲載の情報です。

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