人をもてなす家"マヨイガ"や、"ふしぎっと"と呼ばれる妖怪などが登場する公開中のファンタジーアニメ映画『岬のマヨイガ』。居場所を失った2人の少女の前に突然現れる不思議なおばあさん、キワを演じる大竹しのぶさんに「人との関わり」について伺いました。
――優しく力強いメッセージを伝えてくれる作品でしたが、大竹さんにとって印象的なシーンはどこですか?
「昔々...」と昔がたりをするところがあるんですけど、そのおとぎ話みたいなシーンが私は好きですね。
「昔々あるところに」って小さいとき母に買ってもらった絵本や、子どもたちに読んであげた絵本を思い出しました。
絵本というと子どもが読むものって思われていますけど、実は子どもだけのものではなく、大人の心にも残るお話がたくさんありますよね。
怖い話もたくさんあるんだけど、そういうおとぎ話とか昔話ってすごく神秘的で優しくて楽しいなって思うから、脚本をいただいたときは、昔、絵本を読んだときのようにわくわくしながら読みました。
――お子さんのころ好きだった本は何ですか?
浜田広介さんの『泣いた赤鬼』や『りゅうのめのなみだ』『むく鳥の夢』は小学校2年生ぐらいのころに買ってもらって、本当にボロボロになるまで読んでいました。
脚本はそんなころのことを思い出させてくれましたね。
演じるというより気持ちを引き出す
――多くの作品で声優をされていますが、これまでなかったおばあさんの役で、それもかなり感情を抑えて伝えるという演技はいかがでしたか?
難しかったです。
声優さんだったら今回はこの声でいこう、とか声を作って演じることができると思いますが、この作品では、監督さんがそれはしなくていいっておっしゃって。
本当はもうちょっと声を低くしたり、方言を使った方がおばあちゃんっぽくなると思うんですけど、方言は地域を確定する印象があるので、使わずに表現するのは難しかったです。
物語の中のキワさんの気持ちを絵から引き出す、そんな感じで演じました。
コロナ禍だからこそ言葉の力を大切に
――キワさんはとても自然に人に優しい言葉をかけるのが印象的でした。大竹さんは人との関わりで意識していることはありますか?
人同士触れるってとても大切なことだと思うんですけど、いまはできないですよね。
昔は買い物に行っても「くださいなー」って言って「はい、ご苦労様」って必ず言葉を交わした時代でしたけど、いつの間にか人と関わるのは面倒くさいという風潮になって、おまけにコロナでしゃべってもいけない、支払いでお金も直接渡せないことに...。
それって人間が崩壊していくような気がしますよね。
この前、脚が不自由な方がたくさん荷物を持って歩いていたので、車から「乗って行きませんか?」って声をかけたんだけど、「いいです、いいです」っておっしゃって。
そこで「あ、コロナ禍だ」って気付いて。
そういうこともできないんだって。
とてもさみしいし、つまんないと思います。
――そんな中で私たちはどうすればいいんでしょうか。
あとは言葉しかないですよね。
キワさんみたいに思っていることは照れずに伝えることが大事だと思います。
でもやっぱり触れ合うことがいちばん大事で、先日まで上演していたお芝居も家族の物語なので演出家から毎日お互いハグをするよういわれていて。
私たちは日々PCR検査を受けて陰性確認をしていることもあり、毎日毎日抱き合って、「愛してる」って。
それが儀式みたいになっているんですけど、そうやって一瞬でも抱き合ったり触れ合うことで心が通じると思います。
だから早く元の世界に戻ってほしいなって思います。
取材・文/山城文子 撮影/吉原朱美 ヘアメイク/新井克英(e.a.t...)