高齢者の「うつ病」に有効な治療法を、神科医の和田秀樹先生が解説

腰痛にも効くSNRI 新たな薬も続々

セロトニンの濃度だけを上げるSSRIのあと、「SNRI(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor=セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」という薬も開発されました。この薬は、セロトニンだけでなく、脳内のノルアドレナリン(※6)も増やすものです。SSRIは、不安感や抑うつ症状を取ってくれますが、意欲がそれほど上がってこないことが多いのですが、ノルアドレナリンも増やすSNRIならば、意欲が上がるのではないかと期待されました。しかし、私の印象では、それほどではないようです。ただ、痛み刺激を和らげる効果はとても高く、慢性の腰痛の人などには効果のある薬で、最近では整形外科の医者もよく使うようになりました。日本の場合、SSRIの認可が大幅に遅れたのに対し、SNRIの利用は1年だけの遅れですみました。

さらに「NaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant=ノルアドレ
ナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)」という薬が、利用可能になりました。これは、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの濃度を上げるよりも、それを受け止める受容体の感度を上げることで、うつ病を治していく薬です。効く人と効かない人の差が大きいという印象があると共に、眠気が強いという副作用があります。逆に、夜に服用すると、不眠が改善する場合もあります。

その他、セロトニンの活性を調節する薬物として、「ボルチオキセチン」という薬も2019年に利用可能になりました。これについては、私も十分な知識と経験がありませんが、多少、副作用が少ないと言われています。いずれにせよ、新しいタイプの抗うつ薬は、脳内のセロトニン濃度を上げたり、その動きを良くしたりすることで、比較的副作用を少なくして、うつ病の治療を行います。

※6 緊張や不安、集中、積極性をもたらし、ストレスに打ち勝とうとするときに働く。過剰になるとパニック障害を引き起こす原因に。

抗うつ薬の効果は2週間後から?

ここで不思議なことが分かってきました。従来のタイプのうつ病の薬もそうだったのですが、服用を始めてから、2週間くらいしないと効果があまり出ないのです。SSRIなどを服用した場合、神経細胞をつなぐシナプスの中のセロトニン濃度は、数十分から1時間程度でかなり上がります。そのため、このタイムラグが謎とされ、いろいろな仮説が立てられました。

その結果、現在では、セロトニンが足りない状態が続くと、脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれる物質が減り、神経の元気がなくなるのがうつ病の原因ではないかと言われています。薬で脳内のセロトニンを増やしてからBDNFが増えて、神経の元気が戻るまでに、およそ2週間くらいの時間が必要なのだろうと想定されています。そのため、薬の効果が分かるようになるまでに、2週間ほどかかると考えられるのです。

セロトニン不足を長い間放っておくと、その分、神経がボロボロになり、治りにくくなるとも考えられています。また、うつ病が長く続いた患者さんは、認知症になりやすいことも知られています。そういう意味でも、早期発見、早期治療が大切だと私は考えています。

【抗うつ薬の使用は、効果と副作用を確認】
抗うつ薬にはいくつか種類がありますが、副作用の全くない薬はありません。また、効果が実感できるまでには2週間ほどかかります。医師と相談のうえ、どの薬を使うか決定を。

高齢者の「うつ病」に有効な治療法を、神科医の和田秀樹先生が解説 2311_P49-051_03.jpg

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

61ddlHZOjIL._SL1500_.jpg

『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP