気温が低下し、空気が乾燥し始めて、インフルエンザの感染が心配な季節となりました。予防にはワクチンの接種が有効ですが、その効果をより高められる可能性があるといいます。その効果や免疫について、順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター 細胞機能研究室准教授の竹田和由先生にお聞きしました。
インフルエンザに感染しないことが最重要。予防接種はマスト
新型コロナウイルスの感染拡大がいまだ収まらない中、この冬はインフルエンザとの同時流行が危惧されています。
手洗い、うがい、マスクの着用のほか、今年は特にインフルエンザのワクチンを打つことが重要視されています。
世界保健機関(WHO)の専門家も「今年はインフルエンザの予防接種を受けることが特に重要」とコメントし、日本感染症学会でもインフルエンザワクチンの接種を強く推奨しています。
その理由を、竹田先生はこう話します。
「新型コロナウイルスの特効薬やワクチンはないため、まず気をつけたいのはインフルエンザに感染しないことです。インフルエンザと新型コロナウイルスは1人が同時に感染することはほぼないと考えていますが、例えば、1人がインフルエンザになり、付き添いの家族と一緒に病院に行くとします。すると、そこで付き添いの人が新型コロナウイルスに感染する恐れが考えられます。また、薬を飲んでインフルエンザが治ったとしても、病院に行った時などに新型コロナウイルスに感染する可能性もないとはいえません。ですから、まず1人1人がインフルエンザに感染しないようにし、通院や外出を避けることが大切なのです」
「自然免疫」と「獲得免疫」の2つが連動して異物を撃退
インフルエンザや新型コロナウイルスから身を守るには、「免疫」を上げることが有効とされています。
「この『免疫』には、自分の力で上げられる『自然免疫』と、ワクチンなどの接種により獲得する『獲得免疫』の2つがあります。これらは連携して働いて私たちの体内に入ってきたウイルスや細菌などの異物をやっつけています」と、竹田先生。
主な特徴を教えてもらいました。
【自然免疫】生まれながらに備わっている免疫力。食習慣や運動習慣、生活習慣、季節などによっても変わり、通常、「免疫を上げる」というとこれを差します。
●戦う敵...さまざまな病気。
●機動力...早い。入ってきた異物を最初に攻撃し、初めて出合った異物でも素早く反応する。
●コスト...生活習慣の改善など、ワクチン接種などに比べると安価。ただ、効果は不安定で、体調や季節などにより変動。
●異物の見極め方...そこそこ上手。さまざまな異物に対応できるが、病気を完全に防ぐ・治すのは困難。つまり、いろいろな病気に罹りにくくなる。いわゆる"便利屋"のイメージ。
【獲得免疫】過去の感染経験やワクチン接種によって、特定の感染症を防いだり症状を軽くしたりする免疫力。ワクチンの予防接種で活性化するのはこの免疫です。
●戦う敵...1つの病気にピンポイントで対応。
●機動力...遅い。最初に出会った異物にはすぐに反応できず、1度目の出会いで攻撃方法を学習(獲得)して記憶するため、2度目には素早く強く反応。
●コスト...ワクチンの接種など、自然免疫に比べ活性化させるコストは高い。その分、効果は高く、まれに例外はあるが、基本的にその病気には2度と感染しない。
●異物の見極め方...上手。遺伝子1個レベルで厳密に見極め、特定の病気を完全に防げる・治せる。いわゆる"専門家"のイメージ。
「自然免疫」を高めることでワクチンから得る「獲得免疫」の力もアップ
「自然免疫」と「獲得免疫」は連携して働いており、自然免疫を上げるだけ、ワクチンを打って得られる「獲得免疫」だけではインフルエンザを完全に防ぐことは難しいと、竹田先生は言います。
「体内に異物が入ってきた時、まず最前線にいる『自然免疫』が攻撃します。そして、排除できないとなると、『自然免疫』の『樹状細胞』が異物の情報を持って飛脚のように『獲得免疫』のもとに走ります。その情報を受けて、その異物に対応する獲得免疫が総攻撃するのです」
この時、「自然免疫」の力が弱いと、異物の情報を「獲得免疫」に伝達するスピードや能力が落ちてしまいます。
「自然免疫」の力が強ければ、情報が早く強く「獲得免疫」に伝わり、その分、「獲得免疫」が早く的確に作動・活性化し、病気が早く治りやすくなるというわけです。
ですから、インフルエンザワクチンを打っただけで安心せず、同時に「自然免疫」の力を日ごろから向上させておくことが重要です。
ワクチンを打つ前に乳酸菌1073R-1株のヨーグルトで免疫の力を活性化!
「自然免疫」は日ごろの食生活や生活習慣の改善により高めることができますが、ワクチンの効果をより高められる方法もあります。
その秘密が「アジュバント」です。
「『アジュバント」とはワクチンと一緒に投与することでワクチンの効果を高める成分のこと。いわゆる、"お助け効果"のことです。インフルエンザワクチンに対してアジュバント効果が期待されるのがヨーグルト。特に乳酸菌1073R-1株を使用したヨーグルトは、インフルエンザワクチン接種後の抗体価をより高めるアジュバントとして働き、ワクチンの効果を高める可能性があると考えられます」と、竹田先生は話します。
健康な人がインフルエンザワクチンを接種する3週間前から、乳酸菌1073R-1株で発酵したドリンクヨーグルトを毎日飲用し、ワクチン接種後も飲用を継続したところ、未発酵の酸性乳飲料を摂取した群と比べ、インフルエンザA型H1N1、B型のワクチン株に対する抗体の抗体価が高くなったという結果になったそうです。
「乳酸菌1073R-1株を摂取すると、免疫を上げる成分の多糖体『EPS』が小腸にある『M細胞』から体内に取り込まれると考えられます。すると、『獲得免疫』に異物の情報を伝達する『自然免疫』の『樹状細胞』が活性化されることがわかっています。『樹状細胞』からの情報を得て、『獲得免疫』の『B細胞』も活性化し多くの抗体を作る、つまり、抗体価が上昇しワクチンの効果が上がることになります」と、竹田先生。
インフルエンザワクチンを打つ3週間ほど前に乳酸菌1073R-1株を摂取し、免疫の力が活性化しているところにワクチンを打てば、より確かな効果を得られることができるのです。
乳酸菌1073R-1株を使ったヨーグルトの摂取量の目安は1日100g。
「おやつではなく、食後のデザートとして食べるのがおすすめ。乳酸菌は胃酸への耐性がありますが、胃酸が食べ物で薄まっているほうがより効果が出やすいためです。ワクチンを打つ前も、打った後も、毎日続けて摂ることが大切です」と、教えてくれました。
しば漬けやきのこ類もアジュバント効果に期待
乳酸菌1073R-1株を使用したヨーグルトのほか、アジュバント効果が期待できる食べ物としては、S-PT84株を含む京漬物(しば漬け)、β-グルカンが豊富なまいたけなどのきのこ類がインフルエンザワクチンの効果を上げる可能性があるそうです。
「もともとヨーグルトなどの発酵食品やきのこ類には『自然免疫』を上げる効果があるとされています。これらの食品を摂ることで『自然免疫』が向上してワクチンがない新型コロナウイルスのような病気に感染しにくくなる上、インフルエンザワクチンを打った場合にはその効果も上がり、予防効果がより高まるでしょう」と、竹田先生。
インフルエンザと新型コロナウイルスの対策として、これらの食品を積極的に摂ってこの冬を元気に過ごしましょう。
取材・文/岡田知子(BLOOM)