越後みそをご存じですか? 循環器専門医が考える「発酵食品はなぜ体にいいのか」

平均寿命が80歳を超え、いまや長生きが目的ではなく、「いかに健康に生きるか」という時代に突入しています。全国を見渡すと、新潟県は高齢者の1人当たりの医療費が最も少ない地域。つまり、医者に頼らない、元気なお年寄りが多いところです。そこで、新潟県出身の循環器専門医・五十嵐祐子先生の著書『医師がすすめる新潟式食事術 長生きの秘けつがここにありました。』(アスコム)より、地元の伝統料理や食材と健康長寿の関係や健康的に長生きできるヒントをご紹介します。

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発酵食品天国新潟は、腸美人、腸美男子だらけ!?

発酵食品が体にいいのはなぜ?

発酵食品が体にいいとはよく聞く話ですが、新潟には、発酵食品の種類、数が非常に多いように感じます。

日本人がおそらくトップクラスで食べているだろう発酵調味料、みその消費量も、長野県、岩手県についで、3番目です。

発酵食品を長年愛し、発酵食品文化に親しんできた県民といっていいのではないでしょうか。

なぜ、そこまで発酵食品が広がってきたのでしょう。

発酵の街として知られる上越地方はもちろんですが、新潟全体が夏は高温多湿、冬は雪に閉ざされ低温多湿。

特に冬は雪がたくさん降りますが、東北や北海道ほどの厳しい寒さではありません。

1年を通じて多湿で、菌の発酵には都合のいい気候だったということが大きかったかもしれません。

発酵文化が生まれた背景には、気候のほかにやはりお米があります。

米どころ新潟では古くから日本酒がたくさんつくられ、飲まれてきました。

酒蔵の数は現在約88か所もあり、全国でトップです。

米麹による発酵のノウハウが蓄積されてきた土地柄なのです。

酒づくりの過程で生まれた酒粕による漬物や料理も豊富。

そして玄米を精製してできる糠もまた、発酵食品には欠かせない材料です。

また、海や山、川など多様な自然に恵まれた新潟県は野菜や魚などの新鮮な素材が豊富。

保存食としてそれらを発酵させたさまざまな郷土料理があります。

そして、発酵食品の一番の効果が、腸内環境を整えるところです。

腸を整えるためにするべきことの2トップが、先ほど紹介した食物繊維が豊富な食品を食べることと、発酵食品を食べることです。

そう考えると、新潟県民は、腸美人、腸美男子だらけなのかもしれません。

ではなぜ、発酵食品が、腸にいいのかを説明していきます。

発酵食品は、微生物によって食品を発酵させることによって、タンパク質が細かいアミノ酸に分解されます。

すると食品は、消化・吸収がしやすくなり、腸の負担が少なくなります。

発酵食品は、そもそも腸に優しい食品だったのです。

さらに発酵食品に含まれている善玉菌によって、腸内環境が改善されるともいわれています。

まだまだある、発酵食品の健康効果

発酵食品とは、食品中のタンパク質や糖分を麹カビや細菌、酵母などが分解し、うま味成分であるアミノ酸やアルコール、乳酸などが生成されたものです。

発酵食品が体にいいのは、腸内環境を整えるだけではありません。

それ以外にもいくつかの効能が明らかになっています。

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そのほかの効能1.免疫機能を高める

最近の研究によると、発酵によって生まれる乳酸菌や麹菌は、腸を通る際に免疫細胞を活性化させる働きがあることが判明しました。

さまざまながん発症リスクを軽減するデータも報告されています。

ちなみにこれらの菌は生きていても、死んでいても免疫細胞に働きかけるそうです。

ですから調理の熱などで菌自体は死んでも、その効果は変わらないのです。

そのほかの効能2.食品の栄養価をアップさせる

微生物による発酵によって、栄養価がさらにアップ!例えば、納豆だとビタミンKが通常のゆでた大豆の100倍以上になるというデータもあるようです。

そのほか消化吸収がよくなることによって、結果的に摂取する栄養価が高くなるということもあります。

そのほかの効能3.食品のうま味が増し、保存性が増す

発酵によって食品のうま味成分が増します。

タンパク質が分解されグルタミン酸などのアミノ酸に変わるため、おいしさが増すのです。

また、発酵過程によって生まれる乳酸菌によってほかの腐敗を進める菌の繁殖を抑えるため、保存性が増します。

そのほかの効能4.成人病を予防する

みそやしょう油、納豆などの大豆発酵食品には、血管に付着した悪玉コレステロールを除去したり、血圧の上昇を抑えたりする効果があります。

これでさらに、発酵した食品自体の栄養素が加わるわけですから、発酵食品をとることが、健康的な生活、長生きするためには、必要不可欠なものといっても、過言ではないと思います。

いろいろな発酵食品を試そう!

一口に発酵食品といっても、その種類は実に豊富です。

新潟にも、辛み発酵調味料の「かんずり」や、魚沼地方の伝統野菜「神楽南蛮(かぐらなんばん)」を刻んで塩や米麹に漬けて熟成させた「神楽南蛮漬け」など、独特な発酵食品がたくさんあります。

それではいったいどの発酵食品をとればいいのでしょうか。

残念ながら、ベストな腸内環境の状態が個々によって違うというのが定説です。

なので食べるのが苦ではなく、食べてみて、お通じの調子がいい発酵食品が見つかれば、それをできるだけ摂取するというのがよいと思います。

長野だけじゃない、新潟県もみそ大国

みそが県民の性格を醸成した?

日本で最もポピュラーな発酵食品といえばみそ。

みそというと「信州みそ」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、新潟県も立派なみそ県です。

先ほど説明したように、消費量も全国3位。

「越後みそ」は味のよさで品評会でも常に上位を占めています。

新潟県は良質の米がたくさんとれ、酒づくりのノウハウもあり、米麹づくりを丁寧に行っていたことが基本として挙げられます。

また、大豆も豊富にとれたので、大豆菌(みそ玉)を利用しておいしくする技術が積み重ねられてきました。

それが適度な気候のなかでじっくりと発酵することで、おいしい越後みそができあがったのです。

腸内環境を整えるという、発酵食品ならではの特徴はもちろんのことですが、みそは日々忙しい人には特に、摂取してもらいたい発酵食品です。

みそに含まれる必須アミノ酸やビタミン群は、疲労回復につながるだけでなく、「幸せホルモン」と呼ばれる脳内物質「セロトニン」の分泌を促してくれます。

それによって睡眠障害の改善、ストレスの軽減などメンタル的に効果があることがわかっています。

新潟県民は、ほんとうに穏やかな性格の方が多いのですが、もしかしたらそれは、越後みそに関係があるかもしれません。

越後の赤みそが健康長寿の秘けつ!?

越後みそは全般に赤みそを少し多めに含んでいます。

みそは3年、5年と熟成期間が長いほど色が濃くなります。

この色はメイラード反応と呼ばれる糖とアミノ酸の反応によって生まれるもの。

熟成期間が長いほどこの反応が進み、色が深くなります。

熟成期間の短い白みそは乳酸菌がまだ十分に働いていないため、麹の働きが強く甘酒のような甘い味がします。

熟成が進み乳酸菌が十分働くと、うま味やコクが増し、複雑な味になります。

このメイラード反応によって生まれる成分がメラノイジンです。

メラノイジンには優れた抗酸化作用があり、細胞のDNAが活性酸素によって傷つけられるのを防ぐ力があります。

DNAがダメージを受けることで老化が進むわけですが、メラノイジンをとることで細胞の老化を防ぎ、若々しさを保つことができるのです。

同時にメラノイジンは脂質の酸化を抑え、コレステロール値を下げる働きがあります。

そのためメラノイジンには血管年齢を若く保ち、血液をサラサラにする働きや、動脈硬化や高脂血症を抑える抗酸化作用があるのです。

まだまだそれだけじゃありません。

インスリン分泌作用もあるとされ、糖尿病の予防にも役立つとされています。

また、食物繊維と同じような整腸作用があり、便秘解消にも効果的です。

白みそ、赤みそ、調合みそなど好みは人それぞれですが、赤みそを多く含む越後みそは成人病、生活習慣病の予防にはとても効果的で、長寿と健康、そして美容にもいい栄養価の高いみそであることがいえます。

【まとめ読み】『医師がすすめる新潟式食事術』記事リスト

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全国有数の健康長寿を誇る新潟に注目し、全6章にわたって食と健康の関係を探っています。伝統料理「のっぺ」を使ったレシピも公開

 

五十嵐祐子(いがらし・ゆうこ)
循環器専門医/東京医科大学循環器内科兼任講師/2017年に欧州心臓病学会で「Best Poster賞」を受賞。生活習慣病の予防として「健康のベースは食事にある」という信念のもと、わかりやすい生活指導に定評がある。メディアへの出演、講演活動も広く行う。

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『医師がすすめる新潟式食事術 長生きの秘けつがここにありました。』

(五十嵐祐子/アスコム)

2018年の後期高齢者の医療費が最も低い新潟県。医者が不要で、元気なお年寄りが多い理由は日常の食生活にありました。根菜の消費量、豚国の消費量、枝豆の消費量が全国1位を誇り、生鮮野菜の消費量も全国屈指。新潟県出身の医師がそこに注目し、食と健康から健康長寿の秘密を解き明かした一冊です。管理栄養士と一緒にタッグを組み、新潟式の長生きレシピも30品以上盛り込んでいます。

※この記事は『医師がすすめる新潟式食事術 長生きの秘けつがここにありました。』(五十嵐祐子/アスコム)からの抜粋です。
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