「自分が望んだ検査」や「ほしい薬」の処方をしてもらえず、お医者さんに満足できない...実はそれ、あなたの「病院のかかり方」に問題があるのかもしれません。そこで、多彩な情報発信をしている現役医師・山本健人さんの著書『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)より、「知っておくと、もっと上手に病院を利用できる知識」をご紹介。医師&病院の「正しい活用術」を、ぜひ手に入れてください。
「早期発見が大事と言われるので、早く病気を見つけるためには積極的に検査を受けた方がいいですよね?」
【答え】
①「早期発見のための検査」にもリスクがあります
② 検査については、医者の指示に従って、ベストなタイミングで受けるべきです
「検査を受けること」そのものにリスクがある
近年「早期発見」が、やや過剰に叫ばれていると感じます。
確かに、病気によっては早く見つければ大事に至らずに済む、というものはあります。
「手遅れになる前にできるだけ早く検査を」と考える人の気持ちは、とてもよくわかります。
しかし、実は病気の「早期発見」にこだわりすぎると、かえって健康を損なうおそれもあります。
なぜでしょうか?
実は、検査を受けることには必然的に「病気ではない人を病気だとみなしてしまうリスク」があるからです。
このことを「偽陽性」と呼びます。
わかりやすく説明しましょう。
たとえば、何も症状のない人が病気の早期発見を期待してお腹のCT検査を受け、膵臓に小さな影が見つかったとします。
治療が必要な悪性の病気なのか、何もしなくてよい良性の病気なのかを知るには、精密検査を受けなければなりません。
詳しい血液検査、超音波を使った検査、内視鏡検査、MRIなどを受けたり、場合によっては、病変の組織を一部取って顕微鏡で調べたりするなど、大がかりな検査を次々と受けることになります。
これらの検査には、患者さんへの「体の負担」がかかること、「お金の負担」がかかること、そして、日々の忙しい生活の中で、何度も病院に通わねばならないという「時間的な負担」があることなどのデメリットがあります。
検査によっては入院が必要だったり、鎮静剤の使用が必要であったりすることもあります。
高齢などの理由で精密検査が受けられないケースを除けば、ひとたび検査で異常が見つかってしまった以上、明確な根拠がない限り、そのまま放置するわけにはいきません。
詳細な検査を受け、治療が必要な病気かどうかをはっきりさせなければ患者さんも納得できないでしょう。
それがどんなに大変な検査であっても、です。
さらなる問題は、たとえこうした精密検査を繰り返しても、確定的な診断ができないケースがある、ということです。
こうなると、手術で病変を取って調べてみなければはっきりしたことはわからない、という話になるのです。
ここで患者さんやご家族と、しばらく慎重に経過観察して精密検査を繰り返すか、病変を切除する手術を計画するかをじっくり相談することになります。
患者さんにとっては、「もし悪い病気だったら」と思うと少しの期間を置くことすら恐怖です。
その一方で、悪い病気でない可能性もあるのですから、体に負担のかかる手術はなるべく受けたくない、という思いもあります。
こうして、患者さんはとても大きな悩みを抱えることになってしまうのです。
検査はメリットが大きいときに受けるのがベスト
膵臓の悪性腫瘍を想定した手術では、一般的には膵臓の半分近くを取ることになります。
また、十二指腸などの近くの臓器も一緒に取ることもあり、非常に大がかりな手術になります。
そして、切除したものを顕微鏡で直接見て初めて診断が確定します。
もちろん、ここで「結局がんではなかった」という結果が得られることもあります。
患者さんはほっとひと安心するでしょう。
しかし同時に、本当は病気ではなかったにもかかわらず、「早期発見」を期待したためにかえって大きな負担を被ってしまった、と複雑な思いを抱えることになります。
また、膵臓が半分しかないと、膵臓から出るホルモン(インスリンなど)が不足したり、消化液(膵液)が不足したりするなど、さまざまな後遺症が起こることもあります。
健康を求めたはずなのに、結果的に健康を損ねてしまうおそれがあるのです。
膵臓の病気では特にこうした問題が顕著でわかりやすいため、ここで例に挙げたのですが、それ以外のどんな臓器でも似たようなことが起こります。
必ず理解しておくべきなのは、特に症状があるわけではないのに全身をくまなく検査して、結果的に治療の必要がないはずの「異常」が見つかったとしたら、精密検査や治療による体への負担や心理的なストレス、時間やお金といったコストなどのデメリットがかなり大きくなる、ということです。
原則として、病気の検査や治療は、常にメリットとデメリットを天秤にかけ、メリットの方が大きいと判断された場合にのみ行うべきものです。
デメリットのない検査や治療はありません。
一定のデメリットがあったとしても、それを上回るメリットがある方を選ぶ。
これが医者の仕事の根幹です。
前述した対策型がん検診における「死亡率の低下」は、その最も大きなメリットの一つでしょう。
関連記事:「検査するリスク」も考えて! 現役医師が考える「検診」のメリットとデメリット」
多くの人が「がんによる死のリスクが下がるなら、それなりのデメリットは許容できる」と考えるはずです。
対策型検診では、こうしたメリットと、検査によるさまざまなデメリットのバランスが取れた検査のみが選ばれている、という点は繰り返し述べておきます。
もちろん、自分の好みに応じて自費で受ける検査に対し、医者が口を挟む権利は本来ありません。
検査や治療には常にメリットとデメリットがある
ただ、「あらゆる検査を受ければ受けるほど幸せになれるとは限らない」ということは、知っておいていただきたいと思います。
「早期発見」にこだわりすぎて、かえって幸せが奪われるようでは本末転倒です。
なお、早期発見にこだわることにあまり意味がないケースとして、「早く見つけてもその段階では何もできない」というタイプの病気もあります。
たとえば、風邪がその代表例です。
症状がまだ軽い段階では、たとえ風邪だと診断されても自宅療養以外に有効な対処法がありません。
「風邪を治す薬」も「風邪の悪化を予防する薬」もないからです。
【まとめ】『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』記事リスト
医師や医療行為への「よくある疑問や不安」を、Q&A方式でわかりやすく解説! 「医学のスペシャリスト」を上手に利用するための「34のエッセンス」が詰まっています