心不全など「命かかわる病気」を減らすために。知っておきたい「高血圧」の治療法

高血圧に悩む患者さんは国内に約4300万人。血圧が高いと心臓や動脈に問題起こす危険があるため、高血圧はとても身近な問題なのです。そこで「薬に頼らず血圧を下げる方法」を、日野原記念クリニック所長で医師の久代登志男先生にお聞きしました。今回は「高血圧の治療方法」についてご紹介します。

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医師に積極的に相談して目標値まで血圧を下げる

「高血圧をコントロールすれば命に関わる病気を減らせます。米国の調査では、診察室で測った上の血圧を130未満に下げたグループでは、140未満を目標にした群に比べて約3年半の経過で心不全が38%減りました。日本でも、降圧目標、つまり高血圧と診断された人が目指す目標値が昨年、変更になりました。

75歳未満、診察室血圧で130/80未満です。日本では家庭用血圧計が普及していることもあり、家庭で測った場合には125/75未満。家庭血圧の目標値は世界でもっとも厳しい基準です」と久代先生。

「一般的に降圧薬は、血圧が高い人ほどよく下がります。例えば170の人が150にはなる。ところが降圧目標130まで辿り着くのは難しい。『まあいいや』となりがちですが、降圧目標までしっかりと下げましょう。一つの降圧薬で降圧目標まで下がるのは、3割くらいの患者さんで、複数の降圧薬を併用する場合も多くあります。3種類の降圧薬を服用しても降圧目標まで下がらない場合、治療抵抗性高血圧と呼びますが、その原因に肥満、食塩やアルコールの摂り過ぎ、睡眠時無呼吸、痛み止め薬の併用、などがあります。

きちんと血圧をコントロールするためには、患者さんの協力も必要です。血圧管理の必要性を患者さんも理解した上で、医師と二人三脚で良好な血圧管理を続けてください。生活習慣に配慮し、現在使用されている薬を3~4種類服用すれば、ほとんどの患者さんの血圧はコントロールできます。

現在の薬には、予測できない重篤な副作用はまずありませんが、普段の生活で薬とうまく付き合うコツがあります。降圧薬は末梢の血管を広げて血圧を下げますので、急に立つと立ちくらみが起こることがあります。ゆっくり立ち上がるようにして、もし立ちくらみがしたらしゃがみ込んで、数分してからゆっくり立ち上がってみてください。それでも立ちくらみがあるようでしたら、医師と相談を。

飲酒時や入浴時には注意しましょう。お風呂は低めの40度以下にし、酔ったらシャワーにしてください。夏は、脱水にならないように十分に水分を摂ってください」と久代先生は話します。

「薬」と「生活習慣」。高血圧治療には2つのタイプがあります

①薬による治療

カルシウム拮抗剤
【血圧が下がる仕組み】血管を広げて血圧を下げる
【主な副作用】動悸(どうき)、顔がほてる、足などがむくむ、歯ぐきが腫れるなど

ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)
【血圧が下がる仕組み】血管を収縮させる体内の物質をブロックして血圧を下げる
【主な副作用】高カリウム血症など

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
【血圧が下がる仕組み】血管を収縮させる体内の物質をブロックして血圧を下げる
【主な副作用】せき、高カリウム血症など

利尿薬
【血圧が下がる仕組み】血管から塩分と水分を抜いて血圧を下げる
【主な副作用】高尿酸血症、低カリウム血症など

β(ベータ)遮断薬
【血圧が下がる仕組み】心臓の過剰な働きを抑え血圧を下げる
【主な副作用】呼吸器疾患が悪化する、糖脂質代謝異常など

1種類の薬で降圧目標が達成できるのは3割程度です。生活習慣を改善し、3~4種類の薬を服用すれば、大部分の人が降圧目標を達成できます。

②生活習慣による治療

減塩
塩分は1日6g未満で。少しずつ薄味に慣れる

食事
野菜や果物を多めに、脂肪分を多く含むものを控え、青魚を食べる

減量
BMI [体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)]の値を25未満に

運動
駅や低層階のビルなら階段で。ウォーキングなどの有酸素運動を、できれば毎日30分

節酒
ビールは中びん2分の1本程度、ワインはグラス1杯程度に

禁煙
たばこはやめましょう。家族に喫煙者がいたら、室内での喫煙を控えてもらいましょう

生活習慣を健康的に変えると、家族など周囲の人の健康環境もより良く変化します。協力してもらいながら、気長に取り組みましょう。

高血圧に負けない、ちょっとした工夫(投薬中の人)

塩を摂り過ぎると、体は血圧を上げて腎臓から排出しようとします。

良好な血圧のコントロールに減塩は不可欠。

食塩摂取量の約7割は加工食品(かまぼこ、ソーセージ、明太子など)からなので、成分表示の「食塩相当量」を確認してから購入を。

わさび、こしょう、レモン、だしなどを効果的に使いましょう。

取材・文/三村路子 撮影/齋藤ジン

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久代登志男(くしろ・としお)先生

医学博士、日野原記念クリニック所長、(財)ライフ・プランニング・センター理事長。専門は循環器学、特に高血圧の臨床と循環器疾患の予防で、将来を見据えた健康サポートを行っている。著書に『高血圧がスーッと落ち着くタオルグリップ法』(洋泉社)など。

この記事は『毎日が発見』2020年4月号に掲載の情報です。
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