仕事に家事にと頑張って、倒れるように眠る毎日。朝起きると疲れは取れていないし、集中力もすぐ切れてしまう...。それ、全て「眠り方」に問題があるかもしれません。そこで、メンタルヘルスと睡眠の専門家・和田隆さんの著書『仕事のストレスをなくす睡眠の教科書』(方丈社)から、心身ともに健康を保つための「ストレス解消睡眠法」について連載形式でお届けします。
怒りという感情をコントロールする
代表的なストレス感情のひとつに怒りがあります。最近は、この怒りをコントロールするようにしようということで、アンガーマネジメントが注目されています。
自分の怒りのパターンを知ることは、自分の怒りに備えることであり、怒り対処のひとつの方法です。
自分の怒りのパターンは、「どんなことで怒ったのか(出来事)」「その時の行動」「その行動を振り返る」「適応的行動」の4段階をとおしてつかんでいきます。
下の表では事例として「上司から仕事の失敗を皆の前で厳しく叱責された」という出来事を挙げました。それは自分にとってネガティブな出来事だったので、「ムッとした表情になり沈黙した」。
では、今この行動を振り返ってどう思うかと言うと、時間が経って冷静になっているので、「上司から反省していないと思われたかもしれない」と気づいた。ならば、「失敗して迷惑をかけたのは事実なので、謝罪の言葉は伝えるようにする」という適応的な行動を導き出せた......、となります。怒りによるネガティブな行動を制御するために、適応的行動を選択できる状況を作るのです。
理性的な行動をとるためには、理性的な状況の中でその行動をイメージすることが重要です。上の表で言えば、「出来事」による感情的な「行動」を「適応的行動」に変えていくことであり、そのためには理性的に「行動を振り返る」ことが必要です。
こうすることで、ストレス感情の代表格である怒りに備えることができるようになります。
人には怒りやすいパターンがあります。
例えば、「自分の価値観の中で大切なものが失われていく時に自分は怒りやすい」というパターンを事前に知っておけば、次に同じような状況に直面した時、むやみに感情的に怒るのを抑えることができます。
不安という感情をコントロールする
もうひとつ、ストレス感情の代表格に不安があります。
不安は、「自分が安心できない、安全ではないことを知らせる感情である」と言われていますが、別の見方をすると、「ある課題に対して、できるかもしれないし、できないかもしれないという不確実な状況を示す感情」とも言えます。
つまり、不安とは機会(チャンス)と危機(リスク)が混ざり合っている時の感情なのです。できる可能性が高ければ「やる気」になり、可能性が低ければ「緊張」「恐怖」「絶望」「諦め」などの感情になります。
もしある課題に対して、できるかできないかで不安を感じているのなら、冷静に不安と向き合い「できる部分」を増やしていく。そうすれば不安を小さくすることができます。
とすれば、ただ不安がっているだけでなく、不安にきちんと対処する方法を知り、備えておけば、不安のレベルを下げることができます。その対処方法をまとめたものが「不安への対処 5つのステップ」です。
不安に対処する最初のステップは、「不安を正しく理解する」ことです。不安という感情には「できる部分もある」と肯定的側面があることを理解する。または、「安全ではない」「わからない部分がある」ことを知らせてくれる感情なのだと、まず不安を正しく理解することです。
次に、自分が感じている「不安な気持ち」に気づき、「不安を感じてもいいんだ」と不安を受け入れます。そして、不安を「現実的な問題」と「主観的な問題」に分類します。
現実的な問題とは、ある課題に対して何か困っている個別的で具体的な問題のことです。例えば、大きな住宅ローンがある、介護を必要とする高齢の親がいる、などです。
一方、主観的な問題とは、転勤や部署異動を命じられるかもしれない、病気になったらどうしようなど、自分の心の中で勝手に描いている未来の漠然とした問題です。
現実的な問題を解決するポイントは、早めに対処することが大切です。対処行動を取りやすくするため、問題を分解して、小さな問題を解決していきます。
試験に落ちるかもしれないという不安なら、必死に試験勉強をするのです。野球の試合で打てないかもしれないと思ったら、ひたすら素振りをする。十分な準備を行っていれば不安という感情は介入してきません。また、経験が浅くて仕事の進め方がわからない場合は、先輩や上司のサポートを受けてください。
主観的な問題は、自分の考え方が生み出したものなので、前述した認知再構成法の実践や誰かに相談することで、問題そのものは解決できてなくても、不安のレベルを下げることができ、気持ちを楽にすることができます。
主観的な問題では、不安の元がわかっていないことがあるので、書き出しをすることによって何が不安なのかを明確にする方法もあります。不安が特定できれば、ストレスのレベルは自然と下がります。
人間の脳はひとつのことに集中し、処理しようとします。これを利用するのが、不安を何かと置き換える「ストレスの置き換え」という対処法です。
例えばウォーキングをすれば、歩くという行為にストレスが置き換わります。歩くと自然に快楽系ホルモンが脳内に分泌されるので、気持ちも前向きになります。
また、リラクセーション法で生理的にリラックスした状態を作ることも有効です。リラックスした状態でネガティブな感情は出にくいからです。深呼吸や体を動かすことで感情の質を変えることもできるのです。
最後に、本当に困っている問題は専門家に相談することです。健康問題なら医師、法律的な問題なら弁護士に相談することです。
感情は目で見ることができません。しかし、感情をセルフチェックすることによって、感情は可視化できます。感情が可視化できれば対処の方法がわかり、感情をコントロールすることができます。そのよい手法が、認知再構成法(うつや不安な気持ちなどを軽減する認知行動療法の手法)です。
以上のように、ここまで感情のコントロールの手法と、感情の代表格である怒りと不安の対処方法について述べてきました。
睡眠は感情と深く関係しています。よい睡眠を獲得するには、睡眠をマネジメントすることが重要ですが、それを実効性あるものにするには、睡眠に深くかかわる感情をマネジメントすることが重要です。
よい睡眠を獲得するために、自分の感情と上手に付き合うことが大切なのです。
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