脳の機能が停止する!?痛み専門医が警告する腰痛の原因

なかなか治らない「慢性的な腰痛」。もしかすると、腰以外の部分に原因があるかもしれません。生活習慣、体の硬さ、心、脳、睡眠の専門家5人が追究した「腰痛の正しい原因」について、『あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから』(日本腰痛研究開発機構/アスコム)より連載形式でお届けします。あなたの腰痛の治し方が見えてきますよ。

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慢性腰痛は「脳の不調」に原因がある

どこの病院に行っても腰痛の原因がわからない。レントゲンやMRIを見ても異常が見当たらない。他のどの原因もあてはまらない。だけど、確かに腰に痛みを感じている......。

何人もの医者が見て、カウンセリングをしても、本当に原因がまったく考えられないタイプの慢性腰痛で悩んでいる人は少なくありません。痛いのだから体のどこかに原因があるはずだと思うかもしれませんが、事実、腰にはまったく異常がないのに痛みが出ることは多々あります。

その場合、「脳の不調」(脳の機能不全や脳の勘違い)が痛みの原因である可能性があります。

脳が不調だから腰が痛い、と言われても、ピンとこないですよね。ではあなたは、痛みはどこにあると思いますか?

例えば膝を擦りむいたら、膝から血が出たりしてズキズキと痛むので、痛みは膝にあるように思うのではないでしょうか。

しかし実際はそうではありません。そもそも痛みは感覚であり、脳が認識して初めて自覚するものです。ですから厳密にいえば、痛みは膝や腰ではなく、脳に存在しているともいえます。

イメージしにくいかもしれないので、わかりやすい現象を紹介しましょう。「幻肢痛」という症状をご存知でしょうか。ケガや病気によって腕や脚を失ってしまった人が、失われた部分に痛みを感じる症状です。痛みは腕や脚にあるものではなく、脳が認識していることを示す一つの良い例だと思います。

このように、腰痛の原因が「脳の不調」と考えられる場合、その不調を解消すれば痛みは消えます。

痛みに対して脳が臆病になる

さて、脳の不調とは具体的にどのような状態を指しているのでしょうか。

一つには「痛みに対して脳が過敏になっている(過敏脳)」状態があります。もう一つは「ストレスが体に出てくる(ストレスの身体化)」状態です。

まず過敏脳について詳しく説明しましょう。脳が痛みに対して過敏になっている場合、普段は痛みとして感じない刺激に対しても過剰に反応して、「痛い」という信号を出してしまいます。

普段、何もしていなくても腰には上半身の重さの負担がかかっています。脳が正常であれば、上半身の重さ程度では痛みを感じません。

ところが過敏脳になっているときは、その程度の刺激であっても痛みとして感じてしまう可能性があるということです。これが長引くと、原因不明の慢性痛になってしまうのです。

例えば、長い間寝たきりになっている入院患者さんなどは、過敏脳になりやすい傾向があります。実際に、ずっと同じ姿勢で寝ていた方が少し姿勢を変えただけでひどく「痛い」と訴える例があります。

また、骨折して長い間ギプスで固定されていた場合にも、過敏脳になりがちです。ギプスをはずすと、ちょっとした刺激に対して強い痛みを感じることがあります。

痛みを抑える脳の機能が弱まる

なぜこんなことが起こるのでしょうか?一説では、脳が本来持っている「痛みを抑える機能」が低下しているからだと考えられています。通常、体をどこかにぶつけるなどして強い刺激が与えられても、過剰に痛みを感じないように脳自体が痛みを抑えてくれています。この機能が、何らかの障害やストレスによって弱まってしまうのです。これは腰痛でもよく起こります。

一度腰痛を発症すると、「また痛むかもしれない」と痛みに対する不安感や恐怖が生まれます。それがストレスとなって、脳の痛み抑制機能が阻害され、過敏脳になってしまうことがあるのです。

過敏脳になると、ちょっとしたことで痛みを感じるようになってしまい、腰に異常がなくても慢性的に痛むようになると考えられます。

ストレスも慢性腰痛の原因になる

次に、脳の不調のもう一つのケースである「ストレスの身体化」について説明します。

脳は、ストレスに耐えきれなくなると、そのストレスを身体に逃がす働きがあります。皆さんは、ひどく緊張したときや、とても嫌な予定があるときなどに、お腹が痛くなった経験はないでしょうか?

休日はなんともないのに、会社や学校に行く前になるとお腹が痛くなるといった話を聞いたこともあるかもしれません。これが、ストレスが身体に現れる「ストレスの身体化」の一例です。

胃潰瘍などがストレス性といわれることもありますが、それと同様の反応といえます。実は腰痛も、このようなストレスの身体化が原因で発生している可能性があります。腰痛を抱えていると、体を動かすときに不安になったり、イライラしたりします。

不安や怒りといったネガティブな感情は、ストレスそのものです。腰には何の異常もない場合でも、例えば脳が「○○すると腰が痛くなるのではないか」と不安がると、そのストレスが身体化して痛みが発生してしまいます。

脳の研究では、「不安だ」(情動・感情)と「痛い」(感覚)は、最終的に脳内のほとんど同じ部分で感じられていることがわかっています。「不安だ」と思うことと「痛い」と感じることは連動しているのです。

不安感が続くと、さらに痛みも強くなるという悪循環につながります。

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脳の機能が停止する!?痛み専門医が警告する腰痛の原因 H1_あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから.jpg生活習慣や脳など5つのタイプから腰痛の原因を探れます。すぐ使える「腰痛ノート」も付録

 

日本腰痛研究開発機構(にほんようつうけんきゅうかいはつきこう)

2018年設立。代表は高橋諒。腰痛対策マットレスを販売する株式公社グリボーの腰痛研究都を独立させ発足。「日本から腰痛で悩む人を0にする」ことを目標に、各専門家を招き、日夜腰痛対策の研究、商品開発を行っている。監修:秋田護(整形外科医)、新井康希(アスレティックトレーナー)、塩多雅矢(理学療法士)、河合隆志(痛み専門医)、官崎雅樹(呼吸器内科医)。


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『あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから』

(著:日本腰痛研究開発機構 監修:秋田護、新井康希、塩多雅矢、河合隆志、宮崎雅樹/アスコム)

「念入りにマッサージ」「なるべく動かさない」といった一般的な腰痛対策、実はあなたの痛みには効果がないかも!?「生活習慣」「体の硬さ」「心」「脳」「睡眠」の各専門家が腰痛の原因を解き明かした腰痛大全。長年付き合ってきた痛みの正体が、これで分かる!

※この記事は『あなたの腰痛が治らないのは治し方を間違えているから』(著:日本腰痛研究開発機構 監修:秋田護、新井康希、塩多雅矢、河合隆志、宮崎雅樹/アスコム)からの抜粋です。
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