ASDの特性に理解がある柔軟性のある職場なら働きやすい/大人の発達障害

「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。

発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。

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●ASDの人は集団の中にいても孤立しがち?

ASDの人は軽度でも基本的に、他人に対してあまり関心を持たない傾向があります。幼児期には一人遊びを好み、学校に入ってからも興味のない授業では先生の話を聞いていなかったり、周りのことを考えず唐突に自分の興味のあることについて話し出したりします。相手の気持ちに配慮することや、状況に合わせて臨機応変に対応することができない場合が多いです。「変わっている」「常識がない」と思われて、友達も少なくいじめの対象になることも珍しくありません。

この傾向は社会人になっても継続します。無表情で世間話や雑談を好まない、言葉を額面通りに捉えて柔軟な対応ができないなど、職場でも浮いた存在として孤立してしまうことがよくあります。職場の人間関係の中にすんなり入っていくことができないのです。学生時代までは、孤立していても何とか乗り切れたかもしれませんが、就職後は仕事に支障を来して不適応を起こしやすいといえます。


●特性を生かせる職場で働く

ASDの人は、その人に適した仕事を任せればきちんとこなせることもまれではありません。例えば、あるASDの男性はパソコンの知識が豊富で、データ入力やデータベースの管理などを担当しています。これまで忙しくて誰も手を付けず、後回しにされていたシステムの改善にも取り組み、きちんと成果をあげました。遅刻欠勤などは全くせず、極めて真面目な勤務態度だそうです。

また、別のASDの男性は、科学的なデータ分析の仕事をしています。結果さえ出せば周囲の人とあまりコミュニケーションを取らなくても構わない職場なので、孤立はしているけれども問題なく働いています。

「ASDの中でもアスペルガー症候群の人は知的能力が高いことが多く、子どものころからの人間関係におけるさまざまな経験の積み重ねから、対人場面で自分がどのように振る舞えばいいのかよく分かっている人もいます。そういう人は自分の特性を自覚した上で、相手に上手に接することができるのです」と岩波先生。

一方で、ASDの人に対する職場の人たちの対応も重要です。ASDの人への接し方で大切なのは、本人が好まないようであれば無理に昼食や世間話の輪に誘ったりせずに、自由に過ごせる環境を作ることです。特性を理解して受け入れることができるような柔軟性のある職場なら働きやすいといえます。

 

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取材・文/松澤ゆかり

 

 

岩波明(いわなみ・あきら)先生

昭和大学医学部精神医学講座主任教授、同大学附属烏山病院病院長。医学博士。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院、東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学精神医学教室准教授などを経て現職。著書に『発達障害』(文春新書)、『大人のADHD』(ちくま新書)などがある。

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