10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。
◇◇◇
前の記事「実は小学生のころからコーヒーが好きでした/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(17)」はこちら。
「HORIZON LABO」はまだまだ進化していく
豆の焙煎はやればやるほど上達していくので、いまは技術を磨いていくことに集中しています。
ぼくのコーヒー豆を楽しみにしてくれている方たちがいることも大きいです。その2つのやりがいがあるから、いま、こんなにコーヒーのことに夢中になれるのだろうと思っています。
ぼくのインスタグラムにも、いろいろなコメントが寄せられていて、やっと通販を始めたときには「北海道だから、飲めないと思っていたけれど、うれしいです」とか、「買いました。届くのが楽しみです」などと書き込んでくださって、本当にうれしかったです。
コーヒーの味にはこれが正解というものはないけれど、ぼくが好きなコーヒーというのは確かにあります。前にも話したように「深くて甘いコーヒー」なのですが、焙煎を仕事にするなら、ぼくが好きな味やしたいことだけをやり続けていてはいけないことは理解しています。お客さんの声や感想を大切にしながら、どんなものが好まれているのかなどを踏まえて、飲んで喜んでもらえるコーヒーを作っていきたいと思っています。
おかげさまで、多くの方にご利用いただいていて、これからもっと大きな焙煎機を取り入れるのか、もしそうなったら焙煎機はどこに置くのか、場所を借りるのか、いずれはコーヒー豆の農園を海外に確保するのか......など、検討しなければいけないことはたくさんあります。豆農園の確保となると、そこはまだ素人なので、勉強もしていきたいです。
まだまだ、今後の目標ではありますが、おいしいコーヒーを作るためにできることを考えて、実現していきたいと思っています。
自分の障害を受け入れた瞬間
自分が「アスペルガー症候群」だと受け入れられるようになったのは、じつは最近のことで、仕事を始めるようになってからです。
最初に聞いたときには、「違う」「そんなことはない」と思いました。でも、自分で仕事をしていくうちに、学校でうまくいかなかったのが納得できるようになりました。「ぼくにはできないことがたくさんある」ということがわかったし、それを前向きにとらえることができました。
いまは、コーヒー焙煎という好きな世界に没頭でき、そこで少なからずお金を稼げるというのが喜びになっています。
お客さんからのメッセージを読むと、ぼくの意図する味と違った感じ方をしている方もいたりして、はっとさせられることもあります。そういうものすべてが勉強になります。コーヒーのことだったら苦にならないのです。それで発達障害だと言われるのなら、まぁそれでもいいのかなという気分です。
たぶん、それはいまのぼくの環境が、自分の得意なこと、好きなことをやれるようになっているからだとは思います。
まわりと比べられることもないし、ここまでに何かを提出しなければいけないという制約もない。
自分らしくスタートできたことで、これまで自分の中で邪魔者扱いにしてきた「アスペルガー症候群」という障害についても、ようやく、「ま、いいか」と、受け止める心の余裕ができてきたのかもしれません。
撮影/木村直軌
次の記事「できないことは誰かに助けてもらえばいい/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(19)」はこちら。
岩野 響(いわの・ひびき)
2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。
『15歳のコーヒー屋さん』
(岩野 響/KADOKAWA)現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。