「休肝日」くらいで「肝臓」は休まらない! 500種以上の仕事をこなす「肝臓」を休ませる方法

【1】代謝
我々はまずエネルギーを、食べ物から得ます。食べ物は口の中で細かくなり、食道を通って胃に進み、胃液で溶かされたりして分解され、腸で食べ物の栄養素が吸収されます。でも、栄養素を単に吸収しただけでは、なかなか使えません。

そこで肝臓が、体内で利用しやすい形へと、栄養素を変換して貯蔵します。

そして必要な時にはそれに応じて、溜めていた分の栄養素を分解してエネルギーなどを作り出します。やっかいなのは、人間が生きていく分に必要なもの以上の物質(過剰に摂った糖質、脂質、アルコールなど)を摂取しても、肝臓は「いつか必要になるかもしれないから、取っておかなければ!」と律儀に考えてくれるので、例えば余分なエネルギーも蓄積してしまい、脂肪肝となり、肝臓機能を低下させる原因にもなります。

肝臓で分解された物質は血液をめぐり、全身の器官などに送り出されます。栄養素を体が利用しやすい形に分解・合成します。この働きを代謝と呼び、何らかの病気で肝臓の機能が低下すると代謝も低下します。そうすると食事をしても、必要なエネルギーや物質に分解されにくくなり、代謝異常が起こってくるのです。

【2】解毒作用
体内で有害と判断された物質は、何らかの形で体外に排出しなければなりません。でもその前に、体内に居座る間は解毒をしてなるべく害を減らしたいのですが、この解毒作用の主な部分を肝臓が担当します(腎臓が担当することもありますが)。

肝臓は私たちが摂取した有害物質(アルコールや薬剤など)や代謝の際に生じた体に有害な物質を、毒性の低い物質に変換して、尿や胆汁中に排泄できる形にするという役割(解毒作用)を持っています。

ただし、有害物質があまりにも多いと、この肝臓の解毒作用が追いつかず、肝臓に大きな負担をかけることになってしまいます。

【3】胆汁の生成・分泌
胆汁というのは、右脇腹にある肝臓の真ん中あたりにくっついている、小さい巾着のような胆嚢(たんのう)と呼ばれる袋から分泌される液体のことです。

この胆汁は肝臓の中で常に分泌されている物質で、主に脂肪の乳化とタンパク質を分解しやすくする働きがあり、これにより脂肪は腸から吸収されやすくなります。

また、コレステロールを体の外に排出する際にも必要となってきます。

アルコールの強さは遺伝で大きく決まる

いかがでしょうか、実はこんなにたくさんの仕事を、肝臓は黙々と行なっているのです。

ということはもしかして「休肝日」、つまり肝臓を休ませてあげるためには、アルコールだけを送り込まないようにすれば済むってものではない、と思い始めませんか?

実際に肝臓は、食事を適度にバランスよく摂っているような状況であれば、それほど常にフル稼働しているという状況にはなりません。ただし暴飲暴食をすると、肝臓が通常の生活を送る上で働かなければいけない仕事量があるのに、糖質やアルコールを大量に送り込むことにより、残業や重労働をさせてしまうことになるというイメージですね。

では、体質的なアルコールへの強さ・弱さは、肝臓の仕事量に影響はあるのでしょうか。

体の中に入ったアルコールは20%が胃から、残りの80%が小腸で吸収されたのちに、血流に乗って肝臓に運ばれて分解されます。この分解の過程で「アルコール(エタノール)→アセトアルデヒド→酢酸」と姿を変えて、最終的に炭酸ガスと水になります。

体内にアルコールがたくさんある状態がいわゆる「酔っ払い」の明るく楽しい状態。逆にアセトアルデヒドが体内にたくさんある状態が、頭が痛かったり気持ちが悪かったりする「悪酔い」の状態だと思ってもらえればわかりやすいと思います。

ですから悪酔いしている=具合の悪い状態を早く抜け出すには、この「アセトアルデヒト→酢酸」の行程を速やかに通過する必要があります。

この「→」の部分で働く代謝酵素のパワーによって、お酒の強い・弱いが決まります。実はこの体質は遺伝で大きく決まってくるので、家族が飲めない人ばかりであったり、家族全員酒豪であったりといった差が生まれるのです。

お酒は1日にどれくらいまで飲んでも平気か?

これまでの医学研究から、どのくらいの量をどの期間飲み続けると、肝臓に障害が発生してくるかの、およその目安がわかってきています。

「日本酒3合を、毎日5年間飲み続ける」、これが「アルコール性肝障害」と呼ばれるお酒で肝臓が悪くなる状態を作り出してしまう量だと言われています(1)。

純アルコール換算すると、1日におよそ23gに相当します。他のお酒であれば、1日に、

・ビール:大ビン1本(633mL)
・ウイスキー:ダブル1杯(60mL)
・焼酎(25度):0.6合(110mL)
・ワイン(赤・白):ワイングラス2杯(200mL)

程度と言われています。

肝臓はアルコールを代謝する以外にも、たくさんの仕事をしています。暴飲暴食で肝臓に残業させることなく過ごすためには、暴飲暴食の日を続けて時々お休みの日をあげることを意識するよりも、常に過重労働をさせないように、肝臓にホワイトな職場環境を提供できるように意識することが大切です。

<結論>
・肝臓のお仕事は500種以上。アルコール分解以外にもやることが膨大にあるので、休肝日を設けるだけでは完全には休まらない
・アルコールが弱いのは遺伝で決まる。家系的に弱い人はさらに注意
・平均的な日本人であれば、アルコールは1日に23g未満で済むようにとどめる

(参考文献)
(1)厚生労働省 健康日本21(アルコール) https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5f.html (Cited 2023 Aug 20)

 

柳澤綾子
医師、医学博士。東京大学大学院 医学系研究科 博士課程修了。大学院時代から公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを学んできている。現在は、東京大学および国立国際医療研究センターにて研究を行いつつ、ママ女医の立場から健康格差解消のための啓蒙活動に尽力、講演、記事監修や執筆等を行っている。海外医療活動参加歴あり。パナマにて国際船医免許取得後、世界一周クルーズ船船医として世界中からの乗客のべ8000人以上を診察、世界27カ国の病院に紹介状を持って同行医師経験あり。

※本記事は柳澤綾子著の書籍『身体を壊す健康法 年間500本以上読破の論文オタクの東大医学博士&現役医師が、世界中から有益な情報を見つけて解き明かす。』(Gakken)から一部抜粋・編集しました。

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