低血圧には3種類が存在する
では逆に、低血圧はどうなのか。一言で低血圧と言っても、低血圧はさらに大きく3つの種類に分類されます。
1つ目は、本態性低血圧と呼ばれるもの。これは特に何か大きな原因があるわけではなく、基準値よりも血圧が低い状態を指します。大抵の低血圧はここに分類されますし、特に病的な状態ではないことが多いです。
2つ目は起立性低血圧と呼ばれるもの。通常人間の体は急に立ち上がった場合などでも、血圧を適切に制御するシステムが備わっています。しかし中には立ち上がった瞬間に血圧が急激に低下し、立ちくらみやめまいを引き起こす症状が出る場合があります。このような状態が起立性低血圧です。健康な人でも、疲れていたり栄養状態が悪かったりすると引き起こされることがあり、ひどい場合には失神発作を伴うこともあります。
そして3つ目が症候性低血圧と呼ばれるもの。これは何らかの基礎疾患に伴う低血圧を指しますので、その根本原因の治療が必要となります。
本項冒頭で述べたような、「血圧低いんだよね」と話すような例の場合は、基本的には1つ目の本態性低血圧のことが多いのではないかと思います。
低血圧だと朝が弱い、というエビデンスはない
実際には、低血圧だと朝起きられないというエビデンスはありません。医学的にも「低血圧→起きられない」という因果関係は成立しないように思います。
逆に、寝起きが悪かったり、なかなかすっきりと目覚められず、無理やり起こされた感じでものすごく機嫌が悪かったりするという症状は、低血圧によるものというよりは、サーカディアンリズムと呼ばれる人体の生体リズム、交感神経と副交感神経の切り替えを行なう自律神経のバランス、本質的な睡眠不足や睡眠の質などが影響していることが多いと考えられています。
そもそも自律神経というのは、本人の意思で交感神経を優位にしたり、副交感神経を優位にしたりの切り替えはできないからこそ、「自律」の神経という名がついているのです。
交感神経が働いている時というのは簡単にいえば、動物が「さぁ狩りに行こうか!」とい
う状態のことで、心拍数は上がり血糖値も上がりやる気と元気に満ちた好戦的な状態を指します。逆に副交感神経が働いている時というのはこの逆で、例えば「お腹がいっぱいで心身が満ち足りている」「心拍数が落ち着いていてリラックスしている」などの状態を指します。
夜に入浴やリラックスをするほうがいい
そのため睡眠時を見てみると、寝ている時は副交感神経が優位でリラックスしていますが、朝になるにつれて少しずつ交感神経が優位となっていき、活動的な状態になってゆきます。
交感神経が活性化してくる際に目覚めれば、すっきり目覚められると考えられていますが、現代の生活スタイルだと、寝る前に明るい画面のパソコンを見ていたり、好戦的なゲームに熱中したりすることで、交感神経が刺激されて自律神経のバランスが乱れやすくなってしまい、睡眠が阻害されることにもつながるのです。
質の高い睡眠のため、ひいてはすっきり目覚めるためには副交感神経を優位にする必要がありますから、例えばお風呂でゆっくり温まったり、就寝前の1時間は刺激の強いゲームなどは避け、それ以外の自分の好きなことをしたりしてのんびり過ごすのがいいでしょう。
気持ちがリラックスモードになれば、副交感神経が優位となり、自然と寝つきもよくなります。
以上から、血圧が低いから朝起きられないわけではなさそうです。朝起きられないという事象には、低血圧以外の原因があることが多く、特に自律神経の働きを妨げないような生活習慣を心がけるといいかもしれません。夜はできる限り、副交感神経が優位に働きやすい環境を作ってあげることが大事ですね。
<結論>
・低血圧だから朝が苦手、というエビデンスはない
・寝起きが悪いのは、自律神経のバランスや睡眠の質や長さのほうがはるかに影響している
(参考文献)
(1)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html (Cited 2023 Aug 20)