新しい時代・令和も元気に活躍されている90代の皆さん。
お生まれになったのは、大正や昭和一桁の時代です。
大正から昭和、平成、そして令和へとーー。数多くの経験に基づいたお話は参考にしたいことばかり。今回は、95才で影絵作家の藤城清治さんに、いくつになっても日々はつらつと暮らすための考え方を伺いました。
「困れば困るほど面白いことがある。体力がなくなっても、手で作る影絵はできる」
95歳 藤城清治(ふじしろ・せいじ)さん
1924年、東京生まれ。慶應義塾大学在学中より影絵劇の創作活動を始める。大学卒業後、劇場ジュヌ・パントル(後の木馬座)を結成。雑誌『暮しの手帖』に影絵を48年間連載、ケロヨン発案など活動は多岐にわたる。藤城清治美術館 那須高原が2013年に開館。紫綬褒章、旭日小綬章受章。
神話をテーマに描いた壮大なステンドグラス作品
令和元年を迎えた2019年5月、宮崎ブーゲンビリア空港ターミナルの中央に大きなステンドグラスがお披露目されました。
空港ビルの創立55周年を記念し、宮崎県の日向(ひむか)神話をテーマにして制作された壮大なこの作品を生み出したのが、影絵作家である藤城清治さんです。
「これまで宮崎で展覧会をやったりしていたご縁もあったんです。以前からあのあたりをスケッチしたり撮影したりはしてたんですけど、実際にどこまでできるかなぁと思いました。僕はずっとメルヘンの絵を描いてきて、日本の童話なんかもこれまでもわりあいやっていたので、メルヘンという自分の夢や想像を自由に描くのは得意にしていても、神話だと勝手な表現はできないし、全体で何かを伝えられないといけないし。ステンドグラスだから、いつもの自分の描いたナマの線とか色とかで表現できるわけじゃないしね」
神話という壮大なテーマを、横。21m×縦3mという大きなサイズのステンドグラスに表現するというのは、創作活動を20年以上続けてきた藤城さんにとっても新たなるチャレンジとなりました。
色塗りしながら涙がぼろぼろと出てきた
「最初に(空港に飾られる)10分の1のサイズで作品に描く人物の数や配置など構成を考えました。普段、僕はちょっとした線の勢いとかを大切にしているんだけど、このサイズだと顔の表情までは描けない(笑)。それでも、ステンドグラスで自然光を通した時にどうなるかを想定しながら、次に5分の1サイズ、さらに2分の1サイズにして、とやっていったから完成までには時間がかかったよね。そうやって構成が固まったら、今度は色を指定しなきゃいけない。これまで僕は舞台などで大きい絵も描いてきたけど、今回はステンドグラスのガラスで出せる色のことを考えながら、なおかつ輪郭の線を考えつつ細かく塗らないといけない。(構成が決まった現物の2分の1サイズのものに色を塗るのが)何日かかっても終わらないので、もう塗れないよと涙がぽろぽろ出てきて(笑)。色を塗る時だけはね、まいったなあ
と思いました」
若い頃にヨーロッパの教会を見てまわり、自然光で映し出される幻想的なステンドグラスに魅了された藤城さん。
それだけにガラスのカッティングや鉛で描かれる輪郭線、使用されるガラスが自然光で映し出す色の効果までを想定しての渾身の作業でした。
神様が創られたこの世界にいつまでも光があふれ、生命が輝き、愛と花が息づくように、と祈りをこめた作品は「神の光 生命の国愛と花~宮崎と日本の神秘の美しさを世界へ~」と命名されました。
「除幕式の時にね、布をはずしてパーッてステンドグラスが出た時には、苦心した色塗りが思った通りのものになったという達成感がありましたし、ステンドグラスになった方が僕の予想以上のものが出た。ガラスはすごいなぁと思いましたね。赤もブルーもグリーンも、あの色は絵の具では出せない。ステンドグラス工芸家の臼井定一さんの使用したアンティークガラスは、同じ赤でも厚みの違いで微妙な違いが出たりね、そういうとこがよかったですね」