代表作『魔女の宅急便』をはじめ、数々の作品を生み出してきた児童文学作家の角野栄子さん。優しさとユーモアあふれる作品を今もなお作り続けられる原動力や、日々の暮らしについて教えていただきました。
―もの作品を生み出してきた角野栄子さん。84歳になったいまも意欲的に創作活動をされていますが、その原動力はどこからくるのでしょう?
もともと私は作家志望ではなく、デビューも遅い方でした。転機は34歳の時。私は24歳の時から2年間、ブラジルで暮らしていて、帰国して6〜7年たったころ、大学時代の恩師から電話があり、「ブラジルの子どもをテーマにした本を書いてみないか」とすすめられたのがきっかけでした。それで仕方なく書き始めたのですが、何をしても飽きっぽかった私が毎日書いても飽きない。これは驚きでした。人によく思われたいとか、売れたいという欲もなかったので、気持ちが自由でいられたのでしょうね。それは84歳になったいまも同じで、書くことが楽しいので続けられています。
―角野さんはファッションやライフスタイルも楽しまれていて、憧れている方も多いと思います。日々の暮らしを楽しむ秘訣を教えてください。
ある年齢に達すると、自分のテイストみたいなものが定まってきますよね。私は文章を書くようになって、それがより明確になりました。人には必ず、自分が心地良いと感じる"ライン"があると思うんです。ファッションもインテリアも人のまねではなく、自分にとって心地良いかどうかを基準にすると、暮らしがどんどん楽しくなっていくと思います。
―トレードマークのワンビースにもこだわりがあるとか。
ワンピースは旅行のときに便利なので、よく着るようになったのですが、首回りが詰まっていると疲れるし、ゆったりし過ぎると年齢が見えてしまう。自分の体に合う、気に入ったものになかなか出会えなかったので、ある時から、自分で生地を選んで、娘の友達に毎回同じ形に仕立ててもらっています。いくつになっても、おしゃれする気持ちは忘れずにいたいですね。
食事は1日3食。落書きが頭の体操に
―健康維持のためにされていることはありますか?
18年前、鎌倉に越して来てからは散歩が日課になって、毎日5000歩は歩きます。睡眠時間は6〜7時間が基本で、朝はだいたい8時起床。朝食もしっかり取ります。最近は、小豆を煮てハチミツをかけて食べるのがお気に入り。それに、野菜とパン。昼は玄米のお餅を一つ、夜は五穀米と、おかずはその日に食べる分だけ作ります。簡単な料理ばかりですが、季節の食材を取ることや、なるべくいい調味料を使うこと、そしてちゃんとした時間にちゃんと食べることに重きを置いています。
―規則正しい生活の中、お仕事はいつされるのでしょうか
朝食の後に掃除をして、10時半ぐらいから仕事部屋でメールチェックを始めます。それが済むと原稿を書き始めて、途中でお昼を食べたり、和菓子で一息つくことも。そうして、15時半か遅くとも16時には切り上げて散歩に出かけます。外出するときは必ず手帳を持っていって、街をぶらぶら歩きながら、ふと思い浮かんだことをメモしています。最後は、行きつけのコーヒースタンドに立ち寄って、エスプレッソを飲むのがささやかな楽しみです。
空き箱に絵の具で落書きするのも得意技。
―そのメモにはどんなことが書かれているのでしょうか?
心に留まった言葉や、日々の雑用だったり、絵もあったり、なんでも気楽に書いています。私は小さい頃から落書きが好きで、思いついたことをいろいろなところに書いてしまう癖があって、後で見ようと思っても探し出せないことも多くて。それで、文庫形の手帳を持ち歩くようになりました。人に落書きをすすめると、「何を書いていいか分からない」「絵は苦手」と敬遠されがちですが、それは誰かが見るかもしれない。とか、上手に描こう。と思っているから。そういう気持ちが、想像力や冒険心にブレーキをかけてしまうと思うの。私の手帳には、突拍子もない妄想や人に言えない秘密もたくさん詰まっています。誰にも見せることのない自由な世界があることで、自分に正直になれた気がします。