加齢よる心身の老いは病気、ケガなどの悪影響をもたらします。健康寿命を伸ばすポイントは、ホルモンやミネラルの補充、朝食重視の生活習慣、夜間の頻尿改善。そう語る医師・平澤精一さんの著書『60代からの最高の体調 ミネラル・ホルモンで「老いない体」を手に入れる』(アスコム)から若々しく健康に生きる秘けつをご紹介します。
【前回】ホルモンやミネラルの補充は老いや病気を遠ざけ、健康寿命を伸ばすポイント/60代からの最高の体調
社会性を高めることで、テストステロンの分泌が促される
定期的に人と会うことが、テストステロンの低下を防ぐ
60代以上の人にとって、薬によるテストステロンの補充と同様に大事なのが、テストステロンの分泌が高まるような生活を送ることです。
私は、定年を迎えた男性や育児を終えた女性など、それまでの社会的な役割が一段落した人には、「定期的に人と会うような場に参加すること」をおすすめしています。
同じ趣味を持つ人同士のサークルや、カルチャーセンターなど、楽しく集える場所であれば、どこでもかまいません。
テストステロンは、「社会性のホルモン」といわれることもあり、「友人や家族、会社の同僚から認められている」と実感できている人、「自分はここに所属している」と思えるコミュニティがある人、会社やサークルなどでリーダー的な立場にある人などは、テストステロン値が高い傾向にあるといえます。
「社会の一員として生きている」という意識を持ち続けることで、テストステロンが分泌されるのです。
居心地のいい場所で、何かしらの目標を定めて努力すること、仲間たちと楽しく食事をすること。
それが、テストステロン不足の予防につながります。
その集まりの中で、リーダーや会計係など、何らかの役割を担うことができれば、なおいいでしょう。
あるいは、ボランティア活動に参加するのもいいかもしれません。
「自分が社会に貢献している」「人から頼りにされている」「自分が必要とされている」と感じることで、テストステロンの値が高まるといわれています。
外に出られなくても、外見に気を遣うことが大事
しかし、COVID-19のような感染症が流行っているときや、病気やけがで体調が悪いときなど、なかなか外に出られないこともあるでしょう。
そのような場合は、せめて外見だけでも気を遣うようにしてください。
「外見に気を遣っているかどうか」「若々しく見えるかどうか」は、健康の度合いや体内のテストステロンの状態を推し量るバロメーターになります。
テストステロンが十分に足りていると、男性でも女性でも、エネルギッシュで健康的で若々しく見えるからです。
社会との関わりが薄くなったり、加齢や心身の不調などによって外出の機会が減ったりすると、テストステロンが減少します。
すると、ますます心身の調子が悪くなって、意欲が低下し、「どうせ誰にも会わないから」と外見に気を遣うのもおっくうになります。
そしてさらに外に出たり人に会ったりする気持ちが薄れ、テストステロンが減少する......という悪循環が起こってしまいます。
「形から入る」ことは、とても大事です。
髪を切る、好きな服を着る、スキンケアをする、メイクをするなど、外見に気を遣うようになると、自然と心が高揚し、出かけたくなったり人に会いたくなったりしますし、それだけでテストステロンの分泌量が高まるはずです。
未知の扉を開き続けることで、健康寿命は延びる
「未知の世界の扉を開くこと」も大事です。
テストステロンには、冒険心や新しいことへの挑戦を促す作用があり、冒険や挑戦をすることは、テストステロンを増やしてくれます。
冒険や挑戦、未知の世界といっても、いきなり自転車で日本一周の旅に出たり、一念発起して起業したり......といったことをする必要はありません。
少しやる気を出すだけでできること、「新しい趣味を始めてみる」程度のことで十分です。
たとえば、今までまったく料理をしたことのない男性なら、料理を習い始めてみるのもいいでしょう。
朝、少し早起きして、近所を散歩してみるのもいいかもしれません。
新しいことを始めれば、必ず新たな発見があり、今まで知り合うことのなかった人と知り合うことができます。
なお、更年期以降になると、しばしば、男性の体内では男性ホルモンよりも女性ホルモンが優位になり、女性の体内では女性ホルモンよりも男性ホルモンが優位になるという逆転現象が起こります。
そのせいか、更年期以降の女性は強く活発になる傾向があり、男性は逆におとなしくなる傾向があります。
妻は、友達と元気にサークル活動を楽しんだり、旅行に行ったりしているのに、夫は定年退職後、新しいことを始めようとせず、家に閉じこもってばかりいる。
そんなご夫婦は少なくありません。
ただ、再三お伝えしてきたように、引きこもること、社会との関わりが薄れることは、テストステロン不足を招きます。
まずは小さな目標を立て、最初の一歩を踏み出してみましょう。
そうすれば、好奇心が刺激されて、世界がどんどん広がり、やる気と興奮に満ちた楽しい生活を送ることができるはずです。
適度な運動こそ、テストステロンを高める一番の方法
「適度な運動をすること」もおすすめです。
適度な運動はストレス発散にもなりますし、筋肉を動かすことは筋力の低下も防いでくれます。
また、適度な運動によって骨に負荷をかけると、カルシウムが骨に沈着しやすくなり、骨粗しょう症のリスクも軽減されます。
そして何より、体を動かすことで、テストステロンも高まるのです。
テストステロンは筋肉でも合成されます。
適度な筋肉トレーニングやスポーツを行い、筋肉に刺激を与えることで、テストステロンの合成や分泌を促すことができるわけです。
そしてテストステロンが多く分泌されれば、意欲がわいて、ますます体を動かすのが楽しくなるという好循環が生まれます。
ただし、過度な運動をすると、体に負担がかかります。
「体を動かさなければ」「運動をしなければ」という気持ちが、ストレスになってしまう人もいるでしょう。
ですから、「毎日、少し坂の多い道を散歩してみる」「近所のプールで軽く泳ぐ」など、無理なくできる範囲のこと、好きで続けられることから、まずは始めてみてください。
勝負をすること、勝負を観ることで、テストステロンの分泌が促される
なお、スポーツやギャンブル、ゲームなどで「勝負」をすることにも、テストステロンの分泌を促す効果があります。
勝負ごとに挑むとき、脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。
ドーパミンには、気持ちよさや喜びを感じさせ、やる気を起こさせ、行動力を高める働きがあり、欲求が満たされたり、何らかの挑戦を行ったりすると、脳の中枢神経が刺激されて分泌されるのですが、テストステロンは、このドーパミンの分泌を促します。
それと同時に、ドーパミン自体も、テストステロンの分泌を高めてくれるのです。
そのため、勝負に挑んだり、勝負に勝ったりすると、テストステロンがどんどん分泌されるわけです。
ですから、たとえば野球、サッカー、バレーボール、テニス、競技ダンスなど、勝ち負けを争うスポーツをすることで、テストステロンの分泌はより高まります。
しかし、みなさんの中には、「そうしたスポーツをするのは、体力的に厳しい」という方もいらっしゃるでしょう。
そのような方におすすめしたいのが、スポーツ観戦です。
おそらくみなさんも、オリンピックやワールドカップなどを観ながら、勝負の行方に一喜一憂したことがあるのではないでしょうか。
人間を含む霊長類や鳥類の脳には「ミラーニューロン」という神経細胞があるといわれています。
この神経細胞は、ほかの個体が行動するのを見たときでも、自分が同じ行動をしたときと同様に反応します。
つまり私たちの脳は、ほかの人の行動や体験を、まるで自分のものであるかのように感じることができるのです。
ですから、スポーツ選手が勝負に挑んでいるのを観るだけでも、さも自分が戦っているかのような気持ちになれますし、それによってテストステロンの分泌が高まるわけです。
勝負がはっきりつく競技であれば、種目は何でもかまいませんが、応援する選手やチームをあらかじめ決めておくことで、より感情移入して試合を観られるはずです。
ホルモンやミネラルの補充、朝食重視の生活習慣、夜間の頻尿改善...健康寿命を伸ばす新常識を全3章にわたって解説