加齢よる心身の老いは病気、ケガなどの悪影響をもたらします。健康寿命を伸ばすポイントは、ホルモンやミネラルの補充、朝食重視の生活習慣、夜間の頻尿改善。そう語る医師・平澤精一さんの著書『60代からの最高の体調 ミネラル・ホルモンで「老いない体」を手に入れる』(アスコム)から若々しく健康に生きる秘けつをご紹介します。
5つの新常識が有効な、これだけの理由
いつまでも健康でいるため、60歳を過ぎたら「テストステロン」の補充を
では、なぜ、
(1)ホルモンを補充して、心身の老いを防ぎ、健康に生きる
(2)ミネラルを補充して、免疫力を高め、感染症やがんなどの病気を遠ざける
(3)正しいサプリメントの飲み方を知り、体内を健康に整える
(4)朝食重視の食生活に変え、健康と長寿を手に入れる
(5)夜間頻尿を改善して、睡眠や生活の質を高める
の5つの新常識が、フレイルや要介護状態になるのを遠ざけ、免疫力を高め、いつまでも若々しく健康に生きることにつながるのでしょうか。
ここでごく簡単にご紹介しておきましょう。
まず、(1)でいうホルモンとは、「テストステロン」のことです。
テストステロンは、一般的には「男性ホルモン」として知られており、「体を男らしくする」「性欲や精力を高める」といったイメージで語られがちですが、実は女性の体内でも分泌されています。
また、テストステロンには「意欲や行動力を高める」「骨や筋肉を丈夫にする」「血管の柔軟性を守る」「脂肪をつきにくくする」といった、心身の健康を維持するうえで非常に重要な働きがあるのですが、残念ながら、年齢を重ねるにつれ、その分泌量はどんどん減っていきます。
そのため、60歳前後からは、男性にとっても女性にとっても、テストステロンをきちんと補充することが、老いない心や体を作るうえで、非常に重要になってくるのです。
たとえば、下の図をご覧ください。
これは、男女の年齢と腰椎骨密度や筋肉量の変化を表したものですが、男性も女性も、通常は50~55歳を越えたあたりから、急激に骨密度や筋肉量が下がり始めます。
加齢によって、骨を丈夫にするホルモンの分泌量が減ってしまうからです。
しかし、この急激な骨密度や筋肉量の低下は、テストステロンを補充することで食い止めることができ、体の若さや健康を維持することが可能となります。
さらに、テストステロンには意欲や行動力、そして認知機能を高める働きもあるため、補充することで、要介護につながりやすい脳の老化を食い止め、自立して生きられる時間を増やすことができます。
60代以上の人にとって、亜鉛は生命の維持、健康の保持に不可欠なミネラル
(2)のミネラルも同様です。
ここでいうミネラルは、主に亜鉛のことです。
亜鉛はテストステロンとも関係していると考えられており、精力剤としても使われています。
そのため、亜鉛に対して「精力を高める物質」というイメージを抱いている人は多いかもしれません。
しかし、亜鉛には「皮膚や毛髪、爪などの健康を維持する」「記憶力を高めたり精神を安定させたりする」といった働きがあり、やはり心身の若さを保つうえで欠かせません。
そして何より、亜鉛には「免疫細胞を助け、体の免疫力を高める」という働きがあります。
新型コロナウイルスをはじめとする感染症やがんなどから身を守るためにも、亜鉛は非常に大事なのです。
ところが、亜鉛の重要性は、あまり多くの人に認知されていません。
よく「日本人に不足しがち」「高齢者にとって必要」といわれるタンパク質や食物繊維、ビタミンあたりを積極的に摂っている人はいても、亜鉛にまで気をつけている人は、そう多くはないのではないでしょうか。
特に高齢者にとって、亜鉛不足は肌荒れや肌の乾燥、皮膚炎、脱毛、傷の回復の遅れ、口内炎など、さまざまな体の不調の原因となるだけでなく、免疫力低下の原因にもなるため、感染症などにかかりやすくなります。
亜鉛不足が味覚障害を招き、食欲不振につながることも少なくありません。
フレイルの高齢者は、そうでない高齢者に比べ、亜鉛が不足していることもわかっています。
60代以上の人にとって、亜鉛は生命の維持、健康の保持に不可欠なのです。
サプリメントを科学的に利用し、足りない栄養素や抗酸化物質を摂取する
なお、亜鉛には、抗酸化作用もあります。
私たちの体内では、日々、細胞を酸化させ、老化やがんなどの病気の原因となる活性酸素が生まれていますが、亜鉛には、活性酸素を無害化する働きがあるのです。
体の抗酸化力を高める物質は、亜鉛以外にもビタミンA、C、Eなどがありますが、中でも私が注目しているのは、カロテノイドの一種である「アスタキサンチン」と、ポリフェノールの一種である「レスベラトロール」です。
ただ、亜鉛も、アスタキサンチンやレスベラトロールも、健康を維持するのに必要な量を食事だけで摂取するのは困難です。
特に高齢になると、どうしても食が細くなりがちですから、ますます十分な抗酸化物質を摂るのが難しくなります。
一方で、年齢を重ねれば重ねるほど、体内でできる活性酸素は増えていきます。
60代以降の人は、若い人以上に、抗酸化物質をしっかり摂る必要があるのです。
そこで活用したいのが、サプリメントです。
日本のような国民皆保険制度がなく、病気になると高額な治療費を払わなければならないアメリカでは、「自分で病気を予防する」という意識が強く、多くの人が健康維持のためにサプリメントを利用し、食事だけでは摂りきれない栄養素を効率的に補っています。
日本でも、サプリメント市場は年々拡大しており、現在は1兆円を超えています。
ただ、「自分にどの栄養素が足りていないか」「どの栄養素が必要か」をきちんと把握してサプリメントを摂取している人は、それほど多くないのではないでしょうか。
詳しくはのちほど紹介しますが、職場や地域の健康診断の血液検査の結果を見るだけでも、自分の体に足りていない栄養素、必要な栄養素が何であるかを知ることはできます。
60代からは、正しいサプリメントの飲み方を知り、免疫力や抗酸化力を高め、体内を健康に整える。
これが、新常識の(3)です。
夕食重視の食生活を見直し、朝食重視に変える
新常識の(4)は、「60代からは、朝食重視の食生活に変え、健康と長寿を手に入れる」というものです。
50代まで「忙しい朝や昼は軽く済ませて、夕食は家族と、あるいは同僚や友人としっかり食べる」という夕食重視の食生活を送ってきた人は、おそらくたくさんいらっしゃるのではないかと思います。
しかし、特に60歳を過ぎてからは、夕食重視の食事はあまりおすすめできません。
活動的な朝や昼に比べて、夜に食べたものはどうしても消費しにくく、余ったエネルギーは脂肪に変わります。
また、夕食をしっかり食べすぎると、寝ている間、胃腸が消化のために働き続け、脳や体がしっかり休めなくなることなどから、睡眠の質も下がります。
一方で、朝食を食べると、基礎代謝が上がり、脂肪が燃えやすい体になります。
さらに、朝食を食べることで、体内時計のずれがリセットされて生体リズムが整い、睡眠の質が高まります。
ですから、朝食をできるだけ豪華にしてゆっくりと食べ、夕食は軽く済ませる。
それが、60代以上の人におすすめしたい、食事の新常識です。
夜間頻尿が、60代以上の人の心身の健康を損なう原因となる
なお、夕食時に飲みものだけでなく、サラダや果物など、水分の多いものを食べると、夜間に尿意を催す原因にもなります。
泌尿器科医という仕事柄、私はよく「年齢を重ねてから、夜中に尿意で目を覚まし、トイレに行くことが多くなった」という相談を受けます。
多くの方が「加齢のせいだから仕方がない」とあきらめているのですが、たとえば、睡眠の質を高めるための習慣を実践し、夜中に目が覚めるのを防ぐだけで、夜間頻尿が改善される可能性があります。
あるいは、「夜、寝る前に水分をたくさん摂ると、血液がサラサラになり、寝ている間の脳梗塞や心筋梗塞などを予防できる」といった情報を信じ、実践していた人は、それをやめてみましょう。
医学的には、「寝る前に水分をたくさん摂ることで、夜間や早朝の脳梗塞や心筋梗塞などを予防できる」とは証明されていません。
むしろ、夜間にトイレに行くことで、転倒したり、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞、排尿失神などが引き起こされたりするリスクが高まります。
さらに、夜間頻尿は心身の健康を損ない、QOL(QualityofLifeの略で、「生活の質」「人生の質」のこと)も低下させます。
夜間頻尿が、フレイルに陥るきっかけとなることもあるのです。
60歳を過ぎたら、いつまでも健康でいるために、寝る前の習慣を見直し、夜間頻尿をしっかり予防もしくは改善する。
これが、新常識の(5)です。
これまで見てきたように、60歳を過ぎても健康を維持するためには、こまめに自分の体の状態をチェックし、自分の体を自分で守ることが大事です。
5つの新常識はいずれも、そのためのものなのです。
ホルモンやミネラルの補充、朝食重視の生活習慣、夜間の頻尿改善...健康寿命を伸ばす新常識を全3章にわたって解説