肩や首のコリ、目疲れや肌あれ・・・年齢を重ねるごとに増えていく体の不調。これらを解消するのに外せないのが、毎日入る「お風呂」でしょう。医学的にお風呂を研究する医師・早坂信哉さんは「入浴方法を少し変えれば、さらなる健康効果が期待できる」と言います。そこで、早坂さんの著書『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案』(大和書房)から、「疲労回復できる入浴法」のエッセンスを連載形式でお届け。今夜からお風呂の時間が劇的に変わります。
入浴スキンケア6か条
お風呂は「スキンケア」とも深い関係があります。
お風呂の効果は、肌を洗浄し清潔にするだけではありません。
体を温めることで血行が促進され、肌の隅々に栄養が行き渡り、肌の代謝もよくなります。
ところが、間違った入り方をすると、皮膚を傷める結果になってしまうのです。
昨今は、女性だけでなく、男性でもスキンケアに気をつかう方が増えています。
健康的な肌は周囲の人に好印象を与えますので、男性ビジネスパーソンもぜひ意識していただきたいものです。
ここでは、私が考案した「入浴スキンケア6か条」を中心に、健康的な美肌をつくる入浴法をご紹介します。
1.42℃ 以上のお湯に入らない
まず気をつけたいのが「湯の温度」です。
42℃を超える熱い湯は、皮膚の乾燥を強めてしまいます。
きれいで健康的な「美肌」に必要な条件とは「きめ細かさ」「色」「うるおい」の3点ですが、熱いお湯は、肌からうるおいを奪ってしまいます。
うるおいのひとつの目安は、皮膚の一番外側にある「角質」の水分量です。
角質層には「セラミド(角質細胞間脂質)」という天然の保湿オイルがぎっしりと詰まっています。
セラミドの中には、大量の水分が脂に囲まれるようにキープされており、それが角質層の水分の約8割を占めています。
つまり「うるおい=セラミド」と言ってもいいほど、重要なものなのです。
ある実験では、38℃と42℃のお湯での入浴後、風呂上りの60分を経過したところでは42℃の方が、角質の水分量が減っていました。
また、42℃を超える熱いお湯では、炎症やかゆみの原因となる「ヒスタミン」ができやすくなるので、かくことで肌を傷つけることにもつながります。
寒い冬は38℃のお風呂ではさすがに温まらないということもあると思いますが、皮膚乾燥のことを考えると熱くても40℃程度までのお風呂がおすすめです。
2.湯上り後のスキンケアは10分以内に
お風呂の後の保湿ケアはとても大切。
しかも、入浴後10分以内に行うのがポイントです。
私たちの研究チームが行った実験で、複数の被験者に浴槽に浸かってもらい、お風呂上りの肌の水分量を時間経過で計測したというものがあります。
そして、お風呂から出た後何分で急激な乾燥が訪れるのか、肌への悪影響を防ぐためには保湿ケアを出た後何分までにするべきなのかを検証したのです。
その結果、お風呂から出て10分後までは入浴前より皮膚水分量が多いことがわかりました。
そして10分を超えると水分量は入浴前と同じ程度に戻り、さらに、30分経過すると入浴前より減ってしまったのです。
皮膚科学では、「皮膚の水分量が保たれているうちに保湿ケアをすべき」としています。
この実験結果から、お風呂上りから10分以内に保湿ケアをしたほうがよいことが明らかになりました。
この10分間のことを私は保湿リミットと呼んで、入浴後の保湿の大切さをみなさんにお知らせしています。
お風呂上りに体をふいたり、髪を乾かしたりしていると、10分はあっという間に過ぎてしまいます。
最近は、お風呂場のような湿度が高い場所で、ぬれた皮膚でも効果的に保湿できるスキンケア用品も販売されていますので、こうしたものを利用してもいいでしょう。
こういう「新兵器」は仕事や子育てなどで時間のない忙しい世代の人はもちろん、皮脂が減ってくるシニア世代の方も活用してもらいたいもの。
もちろん、浴室外で使う従来の保湿剤でも、お風呂から上がって10分以内に使えばOKです。
3.15分以上長湯しない& 1 日に何度も入らない
スキンケアに熱心な人は、1時間以上お湯に浸かっていたり、汗もかいていないのに、1日に何度も入浴したりすることがあります。
残念ながら、長湯と複数回入浴は、お肌のためにはNGです。
お風呂に入った直後は、角質が水分を吸うので、見た目はうるおってるように見えるでしょう。
しかしそれはあくまで一時的なもの。
天然保湿成分のセラミドは、お湯に浸かることで流出します。
うるおい肌を目指した長風呂、1日数回風呂が、セラミドを必要以上に失わせてしまい、逆に乾燥肌を導いてしまうのです。
4.石鹸・ボディソープは、2~3 日に1 回
石鹸やシャンプー、ボディソープは「界面活性剤」という物質を含んでいます。
油を溶かして流す作用があるため、水では落ちない汚れを落とすために使用されてきました。
ある程度の使用は問題ありませんが、使いすぎには注意したいもの。
というのも、肌にうるおいをもたらす皮脂やセラミドまで洗い流してしまうからです。
皮脂やセラミドが流されてしまえば、皮膚バリアが崩れ、肌荒れの原因になったり、乾燥肌を招いたりします。
また、近年は「合成界面活性剤」という強力な成分を含んだシャンプーやボディソープが販売されています。
石鹸は成分がシンプルなことが多いのですが、シャンプーやボディソープは様々な成分が入っており、商品を変えただけでかゆみが出る方もいます。
肌の弱い方は使いすぎには注意したほうがよいでしょう。
そもそも、たいていの汚れや脂は、温かいお湯だけで流れます。
石鹸やボディソープを毎日使う必要はありません。
多くの皮膚科医が、石鹸は「皮脂腺の多い場所」を中心に使用することをおすすめしています。
特に「頭部・顔・陰部・背中の上部、足の指の間や脇の下など」です。
石鹸の使用頻度は、皮脂線の多いところに限っては毎日でも構いませんが、その他の場所は2~3日に1回、泡立てて優しくなでるように洗う程度でOK。
皮脂が少ない手足などは、1週間に1回でも十分とされています。
もちろん汗をかきやすかったり皮脂が多かったりなどは個人差もあります。
また、気候や環境によっても異なります。
しかし、多くの方は洗いすぎの傾向にあります。
乾燥肌などの皮膚トラブルをお持ちの方は、石鹸やボディソープの使用頻度を減らしたり、その使用法を見直したりしてもよいでしょう。
5.タオルやスポンジでゴシゴシ洗わない
4でもふれましたが、お風呂用のボディタオルやスポンジで体をゴシゴシと強く洗うのは避けましょう。
ときどき「真っ赤になるまで洗うと気持ちいいんです」と言う方もいますが、肌を傷めたり、乾燥肌を招いたりする可能性があります。
皮膚の一番表面は角質層と言われる薄い層で、その厚さはラップ1枚分という薄さです。
これが皮膚の内側を保護しているのですが、ゴシゴシこするとこの角質層を無理にはがしてしまうことになります。
こすると垢が出る、と言いますが、垢とは無理にはがした角質層のことです。
大事な皮膚の一部であり、決して不要な汚れなどではありません。
先述したように、しっかりと泡立てて、優しくなでるように洗うだけでOKです。
もっともっと皮膚に優しくしてあげてください。
6.半身浴ではなく、全身浴
半身浴より全身浴のほうが健康効果が高いことは、第1章で説明しました。
そしてそれは、スキンケアにおいても同様です。
全身浴の「温熱効果」「静水圧作用」は、健康な美肌をつくるためにきわめて効果的なのです。
美肌の3条件「きめ細かさ」「色」「うるおい」のうち、きめ細かさは「角質層のターンオーバーの状態」です。
ターンオーバーとは、表皮層での細胞の生まれ変わりのこと。
新しい皮膚が生まれ、古い角質(垢)がはがれ落ちる過程を指しています。
ターンオーバーがうまくいっていないと、ザラザラ・デコボコ肌になります。
お風呂の温熱効果&静水圧作用で血流がアップすれば、皮膚に十分な栄養素や酸素が届き、新しい細胞がどんどんつくられ新陳代謝(ターンオーバー)が促されるのです。
年齢が上がると気になるシワですが、これは皮膚のコラーゲンの減少によるものと言われます。
コラーゲンは、皮膚の弾力性を保つ成分で皮膚の線維芽細胞によってつくられますが、コラーゲンの原料となる栄養分が血液によって潤沢に皮膚に運ばれてこそ、コラーゲンが皮膚でつくられて、維持されるのです。
こう考えると肌の老化予防にも血流が重要であることがわかります。
美肌の3条件、残りのひとつである「色」ですが、血液循環の状態(毛細血管に流れるヘモグロビンの状態)がよくなれば、血色がよく健康的な肌の色になります。
温熱効果と静水圧作用で新鮮な血液がたっぷりとまわるようになれば、この状態もよくなっていくのです。
よく、お風呂の美肌効果というと、皮膚表面に対する、お風呂の体の外からの作用のことを言うことがありますが、本当のお風呂の美肌効果は、血流改善によって、体の内側からキレイになる、ということなのです。
イラスト/二階堂ちはる
※お湯の温度は、1℃の違いで体に与える効果が変わります。自宅の浴槽に温度調節機能がない場合は、お風呂用の「湯温計」のご利用をおすすめします。ホームセンターや、デパートのベビー用品コーナーなどで販売されています。
※掲載されている入浴法は、様々な医学的研究の結果から、その効果が一般的に期待されるものです。ただし、個人の体質や疾患の性質により、その効果には個人差があります。症状が緩和しない場合、主治医に相談してください。
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