「磨く=こする」ではない! 歯科医師が伝えたい「歯磨きに対する最大の誤解」

「歯の状態」が全身の健康状態を左右する? そんな歯の重要性を説くのが、歯科医師のほりうちけいすけさん。そこで、著書『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ワニブックス)から、体の健康維持につながる「歯を大事にするための知恵」を連載形式でお届けします。

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歯ブラシで歯をこすらないようにしましょう

これが、みなさんの歯磨きに対する最も大きな誤解です。

意味が分からないかもしれませんので、かなり掘り下げて説明します。

「磨く」を辞書で調べますと、次の4つの意味があります。

①物の表面を研いでなめらかにする
②こすって汚れをとったり、つやをだしたりする
③念入りに手入れをして美しくする
④努力して学問や芸をますます上達させる

さて、「歯磨き」の「磨く」はこのうちのどれが正解なのでしょう。

確かに流し台や食器を対象とする場合は「磨く」=「こする」で②が正解です。

では、歯と食器とは何が違うのでしょう。

第一に形が違います。

おしゃれな食器ですら、ある程度洗うことも考慮に入れて作られていますので、細かい溝やくぼみはほとんどありませんので、スポンジやタワシでゴシゴシこすることによって、こびりついた汚れは取れます。

しかし、歯は洗うことを前提に作られていません。

誰が作ったのかは知りませんが、歯というものは機能性重視で作られており、メンテナンスの容易さはまったく考慮されていないのです。

食器と同じく「②こすって汚れをとったり、つやをだしたりする」が最も近いように思えますし、実際に例文もこの使い方を正しいとしていますので、国語の授業なら正解は②になります。

しかし実質は「③念入りに手入れをして美しくする」のが真意に近いのです。

歯の構造を知り、虫歯や歯周病がどのように発生・進行するのかを理解できたなら、お口の清潔を維持するためには、歯の細かい溝やくぼみに歯ブラシの毛先が届かないといけないのはお分かりいただけると思います。

歯ブラシを、ごしごし大きく動かしてしまうと、毛先は溝の細かい所に入る以前に通過してしまいますので、歯と歯の間の小さな隙間の汚れは実際取れてはいません。

にもかかわらず、ほとんどの方は、これで「ちゃんと歯磨きができている」と勘違いしています。

厳しい言い方ですが、本当にきれいに磨けているのなら、虫歯ができるわけはありませんし、常時きちんと磨けていたら、1週間くらい歯磨きをしなくても虫歯はできません。

ほとんどの人が、「歯磨き」=「歯ブラシで歯をこすること」と思い込んでいます。

この一見、当たり前に正しいと認識していることが実は間違っているのです。

この誤った認識は人間代々伝えられ、伝承され続けていますので、ほとんどの人は間違っているとは夢にも思っていないのです。

辞書の例文に書かれているほどですから、一般常識レベルにまでこの誤った認識が、「正しい」と誤認されています。

これが一番大きな問題です。

この認識を変えることができないのであれば、いっそのこと「歯磨き」という言葉を廃止して「口腔清掃」という言葉に置き換えてもいいと思います。

言葉の使い方が誤解を招いているのですが、「磨く」=「こする」ではないのです。

「虫歯にならないように毎日歯を磨きましょう」と言われたので、その通り「毎日歯ブラシで歯をこすって」いると、虫歯にもなりますし歯周病にもなりますし、くさび状欠損にもなります。

歯磨きとは、歯をこすることではありません。

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上の①に示すように、平らな所をきれいにするのであれば、歯ブラシを横にゴシゴシこするのが正解です。

あまりゴシゴシこすると歯の付け根の部分が削れて、くさび状欠損になるので厳密には正解ではありませんが、汚れを取るということに関しては間違ってはいません。

ところが、歯は平らではありません。

溝があり、歯と歯の間の隙間があり、②のようにジグザグ・デコボコしています。

ここのところをゴシゴシこすっても汚れが取れるわけがありません。

③の図を見ると、狙って歯ブラシの毛先を溝の奥に入れ込まないと汚れが取れないのがお分かりいただけるでしょう。

何気なく歯ブラシを動かせば良いというものではありません。

むしろ動かせば動かすほど、毛先は溝に入らず汚れは取れません。

しっかりゴシゴシこすって、「今日もしっかり歯磨きしたから大丈夫」と思っている人があまりにも多いのです。

確かに、歯の平らな面の汚れは取れています。

しかし、入りくんだところの汚れはほとんど取れていません。

言い換えますと「常に汚れが取れているところ」と「常に汚れがとれていないところ」の二極化が起こっており、この後者から虫歯や歯周病が発生することになるのです。

ですから「これだけ毎日ちゃんと磨いているのにどうして虫歯ができるの?」と納得できない方が多いのですが、当然といえば当然の結果なのです。

「歯の溝や、歯と歯の間の細かい隙間に歯ブラシの毛先を押し当てて、しっかり入れ込んだまま小さく振動させる。これをお口の中隅ずみまで行う」

が、正しい歯磨きです。

今大事にすべきはお口の中「歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる」記事リストはこちら!

「磨く=こする」ではない! 歯科医師が伝えたい「歯磨きに対する最大の誤解」 089-H1-rakusuruhuku.jpg歯科医の常識から歯磨き法まで、5章にわたって「歯」の全てを網羅しています

 

ほりうちけいすけ

歯科医師・医学博士。1986年、広島大学歯学部卒業、奈良県立医科大学口腔外科研修医に。1988年、滋賀医科大学麻酔科研修。1990年、奈良県立医科大学病理学助手。1995年、歯科医院を開設する。2017年より一般社団法人奈良県歯科医師会理事に。公益社団法人日本歯科医師会歯科医療IT化検討委員会委員。

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『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』

(ほりうちけいすけ/ワニブックス)

虫歯や歯周病などの“お口トラブル”が動脈硬化や糖尿病、認知症といった重い病気を引き起こすかも!? 病気につながる口内の状態や歯を残すための歯磨き法など、歯を健康に保つためのメソッドがまとめられています。歯を守って、健康な体と生活を手に入れよう。

※この記事は『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ほりうちけいすけ/ワニブックス)からの抜粋です。
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