「お口が汚い」と肺炎や動脈硬化になるかも・・・歯科医師が教える「口の清潔度と病気」の関係

「歯の状態」が全身の健康状態を左右する? そんな歯の重要性を説くのが、歯科医師のほりうちけいすけさん。そこで、著書『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ワニブックス)から、体の健康維持につながる「歯を大事にするための知恵」を連載形式でお届けします。

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歯と全身健康のとの関係

2017年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針に、「口腔の健康は全身の健康にもつながることから、生涯を通じた歯科健診の充実、入院患者や要介護者に対する口腔機能管理の推進など歯科保健医療の充実に取り組む」と盛り込まれました。

オーラルフレイル(お口の機能の軽微な衰え)を含めたお口の疾患、特に歯周病は多くの全身疾患と関連していることが報告され、国家対策としてこれを予防する方向に舵が切られるようになってきました。

これに関係している主要な疾患を列記しますと、

●敗血症
歯周病は歯の周りに付着した細菌による炎症が本質的な原因で起こります。あまりにも細菌数が多いと、歯肉の血管からこの細菌が血液中に侵入して全身に回って発症します。直接命にかかわることもあります。

●動脈硬化
血液中に入り込んだ歯周病菌が、血管壁に感染することにより、生体は防御反応として、血小板の凝集を招き、動脈硬化を引き起こすことが考えられています。これは血栓の形成を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の一因にもなります。

●細菌性心内膜炎
心臓には弁があり、この付近に、微生物が付着して増えると、感染性心内膜炎になります。特に、心臓の弁に障害がある人、人工弁を入れている人などでは、細菌が定着して増殖しやすく、定着増殖した細菌によって、細菌性心内膜炎が引き起こされる確率が高くなります。この細菌性心内膜炎で亡くなった方の心臓から、歯周病菌が検出されたことから、歯周病と細菌性心内膜炎が関係していると考えられています。

●誤嚥性肺炎
普通の人では、気管に異物が入ったらせき込みますが、年をとることによってこの反射が低下すると、誤って気管の中にものが入り込むようになります。こうして細菌が気管を通じて肺に達し、肺炎を起こすことがあり、誤嚥性肺炎と呼ばれています。この誤嚥性肺炎の病巣から歯周病菌が検出されており、歯周病が誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があるといわれています。高齢者の肺炎のほとんどがこの誤嚥性肺炎です。

●低体重児出産
低体重児出産をした女性のお口の中の細菌を調べた研究に、歯の周りの歯肉に歯周病菌が多かったという報告があります。歯周病菌が腫れた歯肉の血管から血液中に入り、それが羊水内に侵入することで、胎児の成長に影響すると考えられており、歯周病は低体重児出産のリスクファクターであると言われています。気づいていないのは当然でしょうが、妊婦さんはエストロゲンというホルモンが唾液中にも出ています。このホルモンは歯周病菌の餌になりますので、ただでさえ、妊娠中はお口の中に細菌が増えます。ですから、それまで以上にきれいにするくらいの気持ちが必要です。

●糖尿病
糖尿病の患者さんは歯周病になりやすく、逆に歯周病がインシュリンの働きを阻害して、糖尿病を悪化させる可能性があると考えられています。最近では、歯科受診を勧める糖尿病専門医も増えてきています。

●認知症
上の歯を支えている顎の骨は頭蓋骨とつながっていますので、一回噛むごとに刺激が生じて、脳に血液が送られます。歯の本数が減るとこの作用が少なくなり、脳へ流れる血流が減少してしまいます。また、歯周病等でお口の中が長期間不潔な状態であるとアルツハイマー型認知症の一因とされているβアミロイドが脳に蓄積しやすいことも報告されています。

●インフルエンザ
お口の中の細菌は、インフルエンザウイルスを粘膜に侵入しやすくする酵素を産生します。また、インフルエンザウイルスは口腔内雑菌の出す「ノイラミニダーゼ」という酵素を介して増殖します。ですから、お口の中がきたない状態であることは、外敵を防ぐためのバリアが非常に弱くなっているうえに、ウィルスの増殖を助長していることになります。お口をきれいに保つことでインフルエンザ発症率が10分の1に抑制された報告も見られます。

●転倒による骨折
1年間に2回以上転倒している人を調べてみると、6割以上の人で奥歯が抜けて噛み合わせが崩壊していたとの報告があり、残っている歯の数は体幹バランスに影響を与えていることが分かっています。

また、お口の清潔度は、全身麻酔を伴う手術や癌等の化学療法・放射線療法の副作用の軽減や回復期間の短縮にも関係しています。

すなわち、治療の充足度や入院期間の短縮に大きく影響します。

どこまでがどの程度の関連性があるのかは今後の調査課題ではあるでしょうが、残っている歯の本数が多ければ多いほど、またお口を清潔に保っているほど、特に高齢になっての健康維持に有利に働くことは間違いありません。

これは余談ですが、高齢になっても残っている歯の本数が多い人ほど総医療費が少なく済むことが報告されています。

香川大の真鍋芳樹教授の研究では、一人あたり医療費では、20本以上の歯が残っているグループは5本以下のグループとくらべて、年間およそ13万円医療費が少なかったことが報告されています。

また、同教授は「1年に2~3回歯科健診を受けている人は、まったく受けていない人とくらべて年間9万円程度医科医療費が少なくなっている」と述べています。

同様の結果が複数の研究機関から出されていることを踏まえて、医療費抑制の観点からも内閣において冒頭の歯科予防の基本方針が提言されたわけです。

お口の中をきれいに保っておくことは、いいことずくめなのです。

丁寧なブラッシングにかかる費用は歯ブラシ代くらいです。

そのために、ぜひ多くの人に正しい磨き方(清掃方法)を知って身につけていただきたいものです。

今大事にすべきはお口の中「歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる」記事リストはこちら!

「お口が汚い」と肺炎や動脈硬化になるかも・・・歯科医師が教える「口の清潔度と病気」の関係 089-H1-rakusuruhuku.jpg歯科医の常識から歯磨き法まで、5章にわたって「歯」の全てを網羅しています

 

ほりうちけいすけ

歯科医師・医学博士。1986年、広島大学歯学部卒業、奈良県立医科大学口腔外科研修医に。1988年、滋賀医科大学麻酔科研修。1990年、奈良県立医科大学病理学助手。1995年、歯科医院を開設する。2017年より一般社団法人奈良県歯科医師会理事に。公益社団法人日本歯科医師会歯科医療IT化検討委員会委員。

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『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』

(ほりうちけいすけ/ワニブックス)

虫歯や歯周病などの“お口トラブル”が動脈硬化や糖尿病、認知症といった重い病気を引き起こすかも!? 病気につながる口内の状態や歯を残すための歯磨き法など、歯を健康に保つためのメソッドがまとめられています。歯を守って、健康な体と生活を手に入れよう。

※この記事は『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ほりうちけいすけ/ワニブックス)からの抜粋です。
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