「歯の状態」が全身の健康状態を左右する? そんな歯の重要性を説くのが、歯科医師のほりうちけいすけさん。そこで、著書『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ワニブックス)から、体の健康維持につながる「歯を大事にするための知恵」を連載形式でお届けします。
高齢者の虫歯は増えている
これまで、比較的若い人の歯を失う原因は「虫歯」、高齢者においては「歯周病」と言われてきました。
ところが、高齢者においても、虫歯は増えてきており、虫歯で歯を失う高齢者も増えてきているのが現状です。
下のグラフは厚労省発表の2016(平成28)年度歯科疾患実態調査のデータを元にしたものです。
子供(5~14歳)の虫歯は1993(平成5)年より、調査のたびに減っています。
これに反して高齢者の虫歯は調査のたび毎に増えているのです。
この理由は大きく2つです。
ひとつは、残った歯の多い高齢者が増えたことです。
平成5年では80歳で20本の歯が残っている人は10人に1人でした。
この当時の高齢者の多くは、虫歯になりうる歯があまり残っていなかったのです。
それが、平成28年では、2人に1人が20本の歯を残せるようになりました。
すなわち、平成5年では80歳で20本の歯が残っている人は10%だったのが、平成28年では50%を超えたわけです。
わずか23年で40ポイントも増えました。
これ自体は喜ばしいことなのですが、虫歯になる可能性がある歯が数多く残るようになったとも言えます。
これがひとつ目の理由です。
2つ目の理由は、高齢になると幾分かは歯を支える骨がやせて歯肉も下がるため、若い頃には歯肉に覆われていた「歯の根っこ部分」が露出してくることです。
この部分は硬いエナメル質がありませんので、いきなり軟らかい象牙質が外界と接することになってしまいます。
さらに顕微鏡で見ると滑沢なエナメル質と違って、根っこ部分の象牙質はデコボコがあります。
このため、細菌が付着しやすく取れにくいことも加わって、根っこ部分はエナメル質の5倍虫歯になりやすいのです。
高齢になってから虫歯ができる人が、それまでの比較的若い頃に虫歯にならずに済んでいたのは、硬いエナメル質が虫歯にならない程度の歯磨きができていたにすぎず、決して十分な口腔内清掃ができていたわけではないのです。
言い換えると、高齢になればなるほど、歯磨きのスキルを上げていかないといけないのです。
これは、言うのは簡単ですが実践するのはかなり難しいのです。
なぜなら、高齢者になると心身機能・集中力の低下、環境変化への対応能力低下が起こるからです。
ただでさえ、ほとんどの人は高齢になればなるほど、歯の汚れを除去するのが若い頃より下手になります。
それをスキルアップさせることは現実的に不可能と言っていいかもしれません。
こういった意味で、高齢者の虫歯予防は高齢になってからでは遅いのです。
逆算すると、高齢になることによる歯磨きレベル低下をふまえて、それでも歯の根っこ部分が虫歯にならないレベルの歯磨きスキルをそれまでに身につけておく必要があるのです。
歯磨きのスキルを向上させる時期は、可能な限り早いほうが良く、理想的には心身ともに柔軟な小学生の頃なのですが、能力的に無理かもしれません。
現実的には、中学生くらいには身につけておくのが良いでしょう。
中学生の頃に身につけておくためには、トレーニングの開始は永久歯が生え始める小学生になった頃が目安です。
それまでは、親御さんの仕上げ磨きのスキルを上げることを念頭においてください。
意識改革が二十歳、三十歳と幾分遅くなっても、適切な習慣を身につけるに越したことはありません。
遅くなればなるほど条件は不利になりますし、柔軟性も低下するため習慣づけるのは難しくなります。
それでも、何もしないでいるよりはずいぶんましです。
高齢者の虫歯は、若い頃からの習慣の延長上にあるのです。
今大事にすべきはお口の中「歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる」記事リストはこちら!
歯科医の常識から歯磨き法まで、5章にわたって「歯」の全てを網羅しています