森永卓郎さんが考える「住民税非課税という最強の武器」。最も豊かな老後になるパターンとは?

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、住民税非課税という最強の武器」についてお聞きしました。

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医療費や介護保険料が少なくなる

住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金の支給が始まりました。

昨年度は、特別定額給付金として、国民全員に10万円が給付されましたが、今年度は18歳以下の子どもと住民税非課税世帯に限って10万円が給付されることになりました。

もちろん住民税非課税であれば、年金収入のある世帯にも給付金は支給されています。

住民税非課税世帯が優遇されるのは、今回が初めてではありません。

例えば、2019年10月の消費税率引き上げに伴って、プレミアム付商品券が販売されました。

このときのプレミアム付商品券は、最大2万5000円分の商品券を2万円で購入できたので、5000円分の補助が出たことになるのですが、このプレミアム付商品券を買うことができたのは、子育て世帯と住民税非課税世帯だけでした。

また、14年の消費税率引き上げのときにも、1万円の臨時福祉給付金が、住民税非課税世帯に支給されました。

住民税非課税世帯が優遇されるのは、こうしたスポット的に行われる給付だけではありません。

医療費の負担も小さくなります。

例えば、75歳から適用される後期高齢者医療制度では、住民税非課税世帯がとても有利になっています。

制度が自治体によって異なるのですが、東京都世田谷区の場合、所得の8.72%という大きな負担が課せられる保険料の所得割が、住民税非課税の場合は、かかりません。

また、年額4万4100円の均等割も、7割軽減が適用されます。

そのため、年間の医療保険負担はたった1万3200円で済むのです。

厳密に言うと、世帯主と被保険者全員の所得額の合計が、43万円+(公的年金または給与所得者の合計数-1)×10万円以下というのが7割軽減の条件ですが、住民税非課税世帯は、この条件を満たします。

また、介護保険料についても、世帯員全員が住民税非課税の場合、年間保険料は2万2248円と、基準額の7割引きになります。

さらに、高額療養費の自己負担限度額も、住民税非課税世帯は3万5400円となります。

1円でも課税されると、限度額は5万7600円に上がりますから、その差は大きいのです。

平均的な年金額でも対象になる!?

それでは、どのような世帯が住民税非課税になるのでしょうか。

実は、非課税のラインは自治体によって微妙に異なっています。

基本的には、65歳以上の場合、年金収入が公的年金等控除の110万円と基礎控除48万円の合計、158万円を下回っていれば、住民税は非課税になります。

配偶者がいる場合は、配偶者控除33万円が加わって191万円以下が非課税となります。

ただし、実際には市町村ごとに住民税が非課税となる年金収入の基準が決められていますので、それに従う必要があります。

東京都の場合、住民税非課税となる年金収入は単身世帯で155万円まで、扶養配偶者がいる場合は211万円までとなっています。

ちなみに厚生年金受給者の平均年金月額は20年で14万6145円となっていますので、年額は175万円になります。

つまり、平均的な厚生年金受給者は、単身だと住民税非課税にはなりませんが、扶養配偶者がいれば、非課税ということになります。

ただ、妻が国民年金だと仮定すると、国民年金(老齢年金・25年以上)の平均年金月額が5万6252円となるため、夫婦2人の平均年金月額は、20万2397円となります。

夫婦ともに、住民税非課税にはなるのですが、それでは生活費に足りないと思われる方も多いかもしれません。

その場合は、足りない分を働いて穴埋めする人も出てきますが、たくさん働いてしまうと、せっかくの住民税非課税という最強の武器を手放さざるを得なくなります。

ただ、その場合でも、方法はあります。

給与を受け取る場合には、経費相当額として、給与所得控除が認められています。

給与所得控除には55万円の最低保証額があります。

つまり、年間の給与収入が55万円までは、給与所得控除で相殺されてしまうので、所得がゼロになるのです。

月額にすると、1人4万5833円までの給与収入であれば、所得がゼロになるので、住民税非課税の立場が守られるのです。

夫婦2人で働けば、9万1666円の給与収入になりますから、年金収入を合わせると30万円近い収入になります。

私は、このパターンが最も豊かな老後になるのではないかと考えています。

私は、生涯働き続けることに反対ではありません。

ただ、現役世代に必死で働いてきたのですから、せめて老後は楽しい仕事をすべきだと考えています。

仕事は、楽しい仕事ほど収入が小さくなる傾向がありますが、月4万円程度の収入を得るのであれば、少なくとも嫌な仕事を回避することはできるでしょう。

老後への備えとして、収入は低いけれども楽しい仕事というのを見つけておくことが、とても重要になっていくのではないでしょうか。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『長生き地獄 資産尽き、狂ったマネープランへの処方箋』(角川新書)がある。

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この記事は『毎日が発見』2022年4月号に掲載の情報です。

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