定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、生き残るリスクから考える「働き続けるという苦行」についてお聞きしました。
正社員として働けるのは少数
老後も大都市での生活を続けようとしたら、よほど大きな老後資金を抱えている場合を除けば、働き続けるという選択肢しかなくなります。
公的年金が大幅に削減されるなかで、物価の高い大都市で暮らすためには、年金に上積みする収入がどうしても必要だからです。
家賃の支払いがあったり、住宅ローンを抱えている場合は、なおさらです。
大都市の家賃は、とても高いからです。
不動産・住宅情報サイト大手のライフルホームズのサイトで東京の小田急沿線の家賃相場をみると、2LDKの場合で、新宿が33万円、成城学園前が21万円、登戸が12万円、海老名が7万円となっています。
夫婦の厚生年金が13万円まで減少する将来では、都心から少なくとも50kmくらい離れないと、そもそも住宅が借りられないことは明らかです。
そして、死ぬまで働き続けるということ自体が本当に可能なのかということも考えないといけません。
総務省の「労働力調査」で昨年の年齢別の就業率(人口のうち何%が働いているかという数字)をみると、60歳から64歳は71・0%と7割以上の人が働いていますが、65~69歳は49・6%と半分を切り、70~74歳は32・5%と3分の1になり、75歳以上だと10・4%と1割になってしまいます。
年齢を重ねると、体のあちこちに不具合が出てきますから、現実問題として、ずっと働き続けるということ自体が、とても困難なことなのです。
また、仮に働き続けられたとしても、どれだけ収入が得られるのかという問題もあります。
「労働力調査」によると、15~64歳の生産年齢人口は、非正社員の比率が33・2%と3分の1にとどまりますが、65歳以上の場合は76・5%と非正社員が4分の3を超えています。
65歳を過ぎても正社員で雇い続けてくれる会社が非常に少ないことを考えれば、当然の結果です。
それでは、非正社員で働くことで、どれくらいの収入が得られるのでしょうか。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、65歳以上の非正社員短時間労働者の平均時給は1433円と決して低くありません。
月間労働日数は15・9日で、週に4日働いていることになります。
そして1日の労働時間が5・1時間、年間の賞与が4万7900円となっていますから、賞与も含めた月収は12万194円というのが、平均的な姿になります。
これだけの収入が年金に加われば、大都市郊外であれば、十分生活を続けることが可能になるでしょう。
夫婦ともに働けば、生活はさらに楽になります。
定年後、つくのは慣れない仕事...
その場合でも、問題は仕事の内容です。
「労働力調査」で、65歳以上の人がどんな職業についているのかをみると、管理的職業、専門的・技術的職業、そして事務従事者のいわゆるホワイトカラーに従事している人は、全体の25・6%に過ぎません。
定年前の55歳から59歳では、44%がホワイトカラーでしたから、高齢期には、ホワイトカラー以外の仕事に転ずる人が多くなるのです。
65歳以上の職業でいちばん多いのが、サービス職業従事者で14・9%を占めます。
サービス職業というのは、家事サービス、介護・身の回り用務、調理・接客・娯楽など個人に対するサービスをする人のことです。
次に多いのは、運搬・清掃・包装等従事者で12・7%です。
三番目に多いのが農林漁業従事者で12・0%、そして生産工程従事者が10・5%と、ここまでが10%を超えている職業です。
現役時代から続けている人はあまり問題ないのですが、ホワイトカラーでずっとやってきた人が、調理や接客、清掃などの仕事にうまく馴染めるでしょうか。
そして、すぐに生きがいを感じることができるでしょうか。
少し極端に類型化すると、現役時代にホワイトカラーだった人は、定年後も正社員のまま、管理職や専門技術職や事務職の正社員として仕事を続けられる人と、正社員のホワイトカラーから非正社員のブルーカラーやグレーカラーに変わらざるを得なくなる人の二つに大きく分かれるものとみられます。
前者の場合は、働き続けることに何の問題もないでしょう。
しかし、後者の場合は、仕事の目的が生活費を稼ぐためだけになってしまうことが多いのではないかと思います。
私は、体が動く限り働き続けるという生き方に賛成なのですが、一つだけ条件があると考えています。
それは、楽しい仕事をするということです。
長年働いてきたのですから、定年後くらいやりたいことをやるべきではないでしょうか。
ただ、問題は、楽しい仕事ほど報酬が少ないという現実です。
どうしたら、よいのか。
私は最大の解決策は、できる限り公的年金の範囲内で暮らせるように家計の構造改革をして、お金のために働く必要がないようにすることだと思います。
そんなことができるのかと思われるかもしれませんが、次回に詳しくお話ししましょう。
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